第4話 塔内部の試練

 塔の内部では光がわずかに壁面を照らすだけで、影は長く伸びる。

 イーサは慎重に足を進め、無表情のラークを横目で確認した。

 感情を持たないその目は、塔の複雑な構造を無駄なく解析しているかのようだった。


イーサ「ラーク、建造機械に接続できるか?」


 ラークは短く頷き、端末を壁に接触させる。光の線が微かに流れ、壁の奥に隠された小型建造装置の配線が浮かび上がる。


ラーク「可能です。解除手順は0.3秒単位で調整する必要があります。」


イーサ「了解。焦らず、確実に行く」


 微かな振動が床を伝える。古代人の気配ではない。塔に残る未来技術の自動制御が作動しているのだ。

 イーサはチープを慎重に建造機械に差し込み、ラークの指示を受けながら解除を開始した。


 だがすぐに異変が起きた。

 塔内部の自己補正機構が、感情データの欠損による無表情コピーの動きを誤読し、ゲージが一時停止したのだ。


イーサ「ラーク、動きが不安定だ!」


 ラークは静かに壁面に触れ、干渉波を送り込む。光の揺らぎが一瞬で収まるが、解除ゲージは再び微動し始める。


イーサ「このままじゃ塔全体が反応する。絶対にミスは許されない」


 小さな振動が続く中、イーサは息を殺して作業を続ける。

 ラークの無表情な目が正確に調整を示し、微細な誤差を補正していく。


ラーク「解除はあと三段階。全て正常範囲内に収める必要があります。」


イーサ「わかった……気を抜かずに」


 だが塔内部の奥から、予期せぬ機械音が響いた。

 過去に送り込まれたラークのコピーたちが、自己保全モードで微細な光を走らせ、データ塔内部で干渉を起こしているのだ。


イーサは唇を引き結ぶ。「……これをクリアすれば、データは回収できる」


 ラークは動じず、正確に干渉波を送り続ける。

 解除ゲージがゆっくりと最後の段階まで進み、光が完全に安定した瞬間、イーサは小さく息を吐いた。


イーサ「よし……これで行ける。データ回収開始だ」


 塔内部の静けさの中、未来技術と過去世界が交錯する。

 古代人のざわめきは遠く、ただ神への畏怖だけが漂う。

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浮遊大陸アルカディア《ARCADIA》 水野祐斗 @tokyo16child3

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