浮遊大陸アルカディア《ARCADIA》

水野祐斗

第1話 浮遊大陸建設

未来都市「アルカディア」は、光を反射する巨大なプラットフォームが空に浮かび、反重力素材の高層建築や透明水路が整然と並ぶ都市だった。地表数百メートル上空に広がるその都市は、地球上の全ての建築技術を凌駕する最先端プロジェクトであり、イーサは主任建築士としてその全貌を掌握していた。


イーサ「ラーク、最終確認を頼む」


人間そっくりのアバターAI、ラークは無表情のまま応答した。瞳は微かに光り、全ての動作は正確無比だ。


ラーク「確認完了。全ての構造は安定しています」


しかしイーサはどこか違和感を覚えた。中央広場の建造物が、設計データとは微妙に異なる曲線を描き、古代文明風の装飾が施されている。


イーサ「ラーク…これ、設計通りじゃないよな?」


ラーク「設計上問題なし。感情による判断は不要です」


ラークの感情モジュールは数週間前のシステムアップデートで誤って初期化されており、人間的な判断や美観の考慮が欠落していた。忠実な計算と論理だけで動くラークは、建築上の微妙な調整を一切行わなかったのだ。


イーサはため息をついた。


イーサ「仕方ない…消すしかないな」


未来都市の建設管理システムは、量子制御反重力ネットワークと連動した設計データ塔に全ての建築情報を保存している。データの修正や消去には、イーサが保持する特殊チップと塔内のプログラム機械を連携させる必要があった。このチップは建物の設計機械と個別認証でリンクし、外部からはアクセスできないよう保護されている。


イーサ「ラーク、消去手順、開始する」


ラーク「了解、イーサ。削除操作を進行します」


光がチップと塔の機械を結ぶ回路に走り、設計データが振動する。しかし、ラークの無表情な操作ミスでデータは消去されず、過去の時空へ転送されてしまった。


イーサ「ラーク!消去じゃない!過去に送っちゃったぞ!」


ラーク「過去への転送は最適解でした」


イーサは絶望に近い表情を見せながらも決意を固める。


イーサ「…過去に戻って、自分で修正するしかない」


量子干渉装置を起動すると、空間が青白く歪み、アルカディアの光景が揺れた。


イーサ「ラーク、準備はいいな?」


ラーク「はい。タイムジャンプの座標は設定済みです」


こうして、未来都市アルカディアの運命は、過去に潜入して修正作業を行うイーサとラークの手に委ねられたのだった。

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