第3話 浅井長政と磯野員昌(いそのかずまさ)

金ヶ崎の撤退戦を生き延びた織田軍は京へ帰還した。退却中にも盗賊や周辺大名の襲撃があったため、織田軍は大量の犠牲者を出し、無傷な者はいなかった。完全な敗北である。

そして京から岐阜城に戻った信長達は早速、裏切り者の浅井長政と敵将の朝倉義景との戦の準備に取り掛かっていた。

「今回の長政の裏切りで我らは多くの兵を失っただけでなく、琵琶湖周辺を通れなくなった事により、岐阜城から京への向かうのも大回りしなければならなくなった。」

信長は頭を抱えながら言った。

浅井長政は今の滋賀県を治めていた。位置関係的にも京都から岐阜へ行くにはここを通れなくなるのは相当な痛手だったのである。

秀吉が口を開く。

「信長様の妹のお市様の身も心配であります。長政が手を出さなければ良いが。」

「それは大丈夫だ。長政は律儀な男である。娘もいるのに母親を殺すようなことはしない。」

信長がそう言った後、光秀の方に顔を向けた。

「のう、光秀。そなたならどうすべきか分かっておるだろう?もうしてみよ。」

「はい信長様。まず優先すべきことは、ここ岐阜から京への道を確保することです。我らの作戦が迅速にいけるように体制を整えるべきです。」

家康が続く、

「しかも今回の浅井殿の裏切りで琵琶湖周辺の反逆組織が我らを攻撃してくるかも知れませぬ。その辺はどうします?」

光秀が答えた。

「そのため、今回の戦いは二つに部隊を分けます。一方はこの岐阜から近江に攻めます。目標は関ヶ原を超えた境にある苅安尾城と横山城です。

そしてもう一方は南尾張から琵琶湖周辺を攻めます。目標は佐和山城の確保と周辺反逆組織の殲滅です。以上の作戦でまずは交通路の確保を優先します。」

信長は光秀の作戦を聞き頷いていた。

「よし、光秀の案を採用する。京からはわしと秀吉らが進軍しよう。南尾張からは誰が行く?」

そう信長が言うと久秀が口を開く。

「私が参ります。お願いですが柴田殿もご一緒願いたい。周辺の反逆組織を迅速に叩くには柴田殿の武勇が必要です。」

「よし久秀、其方の要望を聞き入れよう。では我らはこれより浅井を攻めるために交通路を確保する。全員準備に取り掛かれ。」

信長がそう告げると部下達は準備を開始した。織田軍の動きは速かった。

一瞬のうちに最初の目標の苅安尾城を落とし、横山城を包囲した。

そして南尾張から攻めていた松永久秀と柴田勝家も目標の佐和山城を落とし、織田軍本体と合流した。


一方その頃、近江(現在の滋賀県)の浅井長政は、

「織田信長、もうここまで攻めてきたか。」

長政も織田との決戦の準備をしていたが朝倉軍の援軍が間に合わなかった。そのため出遅れてしまっていた。

そんな長政に部下が戦況をつげにくる。

「長政様、苅安尾城と佐和山城が落ちました。横山城も包囲されています。このままでは横山城も落ちます。至急援軍を!」

長政は部下の報告を聞き、頭を抱える。今の浅井軍には信長を迎え撃つには兵力が足りなかったのだ。長政は決心する。

「横山城は捨てる。信長が我らを誘き出すために包囲しているだけだ。今は朝倉殿の援軍を待ち、決戦の準備を整える。」

部下が動揺する。

「そしたら横山城は見捨てるということですか?」

「ああ、だが安心せよ。信長のことだ。中まで攻めたりはしないだろう。我らを惹きつけるのに利用するだろうからな。朝倉殿の援軍が来てから取り返すぞ。」

そう長政が告げると、奥から声がした。

「お待たせしました。朝倉景健、今参りました。」

「おお!噂をすれば。あれ?義景殿は?」

「大変申し訳ございません。義景殿は城が空けられないとのことで。代わりに私が8000の兵と共に参りました。」

それを聞いた長政がため息をついた。

「我らは義景殿を助けるために信長を裏切ったのに、大将がおらぬことがあるのか。」

そう長政が告げた後に声がした。

「だから義景殿を信用するなと言ったのだ。」

長政と景健が声のする方を向くと、浅井家の武将磯野員昌(いそのかずまさ)が立っていた。

長政が員昌に叱責する。

「おい員昌!景健殿の前で失礼だぞ!」

「いや長政殿、良いのだ。」

景健が長政をなだめていると、員昌が続ける。

「まあ私がいれば問題ありませぬ。必ずや信長の首をとります。景健殿もよろしくお願い致します。共にこの危機を乗り越えるために協力をお願い致します。」

員昌は頭を下げた。

磯野員昌(いそのかずまさ)、浅井長政に仕えているこの男は、これから起こる姉川の戦いにてたった1人で織田軍を追い詰める事になる。光秀とぶつかるのはそう遠くなかった。


そして翌日、浅井朝倉連合軍と織田徳川連合軍は両者、姉川を挟んで向かい合った。

信長が家康に話しかける。

「家康殿、いよいよだな。必ずや裏切り者を討ち取るぞ。」

「はい信長殿。朝倉は私達にお任せください。終わらせ次第すぐに我らも浅井を攻めます。」

光秀も姉川も眺めていた。

目の前には大勢の軍勢が並んでいた。その中で1人、目についた男がいた。

久秀に話しかける。

「久秀殿、あの男は?」

「ああ磯野員昌だ。やつには注意せよ。」

「強いのですか?」

「ああ、強い。しかも頭も切れるし人望もあつい。あの男1人で1つの軍勢が壊滅したこともあるそうだ。光秀殿、この戦いは激しくなるぞ。」

久秀が前を睨みつける。そして間をおかずに磯野員昌が声をあげた。

「鉄砲隊前へ!織田軍を撃て!」

そう言ったと同時、織田軍に多くの銃弾が襲いかかった。

そしてそれと同時に信長が言った。

「総員怯むな!かかれ!浅井軍を殲滅せよ!」

磯野員昌の鉄砲隊の銃声と、織田信長の号令を合図に両軍が衝突した。

後に姉川の戦いと呼ばれるこの戦いは、姉川が血で染まるほどの激戦になる。そして明智光秀は磯野員昌の強さを目の当たりにする事になる。

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光秀「優しき裏切り者の物語」 あき @Aki0526

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