4話 親の理解と警察の接近


「と、いうわけなんだ」


リビングには昨夜帰宅したときとはうって変わって緊張感と静寂に包まれていた。


俺は両親に、昨日の夜魔物と戦ったこと、そして魔物を倒したことでサンベンダーという名の力を手にしたことを語った。この力の強大さも話した。能力を使って変身して見せたし、部屋の鍵のつまみを捩じ切ってしまったことも伝えた。


「そうか……」


父はそう言ったあと無言になった。


まぁ静かになるのも当然だ。

いきなり息子が無敵のムキムキマッチョマンになるような異能を手にしたとして、それを告げられた時の心境とはどういうものなんだろうと俺も思う。俺もまだ混乱はしている。


「……あれ、あれよね。とりあえず無事でよかったわ。死ぬかもしれなかったのよね。あれよ、どんな変化が体に起きてるのかお医者さんに見てもらった方がいいんじゃないかしら? こんな体格が変わって金属すらも捻じ曲げられるなんて、体に負担がかかってしょうがないんじゃないかしら」


普段体調が悪くなっても病院に行きたがらない母はこの沈黙に耐えかねたのか、そう言った。


「まて、モルモットにされかねないぞ。軽率な行動は避けた方がいい。これは息子が宝くじに当たったようなものだと思う。迂闊に誰かに知られればハゲワシが寄ってたかってくるぞ。もちろん身体はみてもらうべきだろうが……危険すぎる。いや、それに他にも似たような力を手にする人たちがこれから出てくるのかもしれない、もう少し待ってもいいだろう」


黙っていた父は母の提案にそう答えた。なるべく母が理解しやすいように気を遣っていたが父はこれが危険な事であると考えているようだ。そんなニュアンスが含まれていると思う。


そこまで話して父はこちらを見た。


「いや、まずは俺たちにしっかりと話してくれてありがとうと言わせてくれ。そしてその力を授かったお前がその力でどうしたいのか嘘偽りなく聞かせてくれ。何を言おうが俺は父としてお前を受け入れる」


そう言われた。俺の考えは自然と話すことができた。不登校になっても支えてくれた両親、実家暮らしでバイトをなんとかやってる俺を応援してくれる両親を、俺は信頼していた。


「これってなんかよくある話だろ。ウェブ小説ではよくある話なんだ。ダンジョンができて、主人公が力を手に入れる。俺つえーってやつ。それでたまたま俺が力を得て、やりたいことなんて急すぎて特に思いつかないけど、もしこの力を使うんだったら、そうだな。人助けがしたいなって思うよ。それこそヒーローみたいな。んー、災害現場で人命救助とか?」


俺は正直に思ってることを伝えた。


「父さんはその力を使えばお前はなんでも手に入るだろうと思う。金も女も好き放題できると思うぞ」


「何言ってるのよ」


母が口を突っ込むが、俺の気持ちは決まっていた。


「俺つえーは趣味じゃないよ。そういう欲望を満たすなら、困っている人を助けたい。将来に困ってる人、力がなくて危機に抗えない人をこの力で助けたい。ダンジョンなんて話もあるし、あんな魔物とかと戦うのがこれから日常になるなら、俺が力を持ってなかったら、誰かに助けて欲しかったし……力を持ったなら誰かを助けたい。それが俺のやりたいことだと思う」


「本気なんだな。立派なことだ。誇りに思う。だが辛く厳しい道だぞ、それは」


「今はなんでもできる気がするよ」


実際そんなものが怖くないぐらいの力を手に入れたと思う。力に溺れてるのかわからないけれど、好き勝手できるなら人助けがしたいかなって、そう思う。


「いつでもやめていいし、相談に乗るからな」


「ありがとう、父さん。さて、早速バイトやめないとね」


「まずはバイトを辞める1ヶ月、その力の制御を磨くべきだと父さんは思うぞ。バイトがいい練習になるだろう。力を手に入れてもどかしいだろうが、日常を過ごしてみろ」


「1ヶ月? そんなに待てないよ。すぐにでもヒーロー活動をしようと思ってたのに」


「バイト先に迷惑をかけるな。急に辞めるなんていうなよ。代わりの人が雇われるまではしっかりと働くんだ。いいな。バイト先に連絡を入れてゆっくり焦らず準備した方がいい」


父の言うことはもっともだった。


「わかったよ。父さん。あと一つ心配なことがあるんだ。もうすでに俺が魔物と戦ったことがバレるかもしれないなってさ」


そういえば、あの戦闘の痕跡から普通に俺が魔物を討伐したことが特定されるかもしれないということだ。


「そうだな。特定されかねないだろうな。もうじき警察がうちに来るかもしれないな」


「ど、どうしよう。警察にバレたら、力のこととかもバレたら、さっき言ってたモルモットにされるかも」


俺はあっさりとびびった。如何に強気で口ではなんとでもなると言っていたとしても19歳の一般日本人的な感性で、警察にはびびるのであった。


「正義のヒーローを目指すなら何も隠すことはないだろう。気楽にかましてやれ」


そして、父の言葉に冷静さを取り戻して、


「ならいっそのこと、配信でもして宣言しようかな」


調子に乗るのだった。


「それは1ヶ月後、力のコントロールができるようになってからにしておきなさい。その力に何かしらデメリットがあるかもしれない。確か、魔物と戦った時、スマホが使えなくなったと言っていたな。お前の能力がその魔物の能力と似ているならまたスマホが使えなくなるかもしれない。きっとスマホだけじゃないだろう、色々確認するべきだと思う」


全くその通りだった。色々と確かめる必要がありそうだ。


「ならどこかに秘密の拠点とかさ作るべきかな? 力を示すのが先かな? だとしたら父さん達は狙われちゃうよね? どうやったら守れるかな?」


「まずは家で色々確かめるぞ、警察が来た時のことも考えよう」


今の俺には強大な力がある。


けれど俺自体はただのアルバイトの19歳だ。

大人の知恵には敵わない。

少し調子に乗ってる自覚もある。


両親と能力を確かめることにする。

これからどうなるのだろうか。


予測していた通り、警察が家に訪ねてきたのはその日の夜の事だった。






色々考えることは多いがこうして、俺の非日常が始まった。

これは俺が初討伐者報酬でチートなツエーになったので、ダンジョン発生によって混乱する社会の中で多くの人に支えられながらヒーローの1人となる物語。


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サン・ベンダー:俺つえーなら人助けしたいなって @7576

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