3話 サン・ベンダー
「ただいま」
アース・ベンダー・アイなる魔物を倒した俺はそのまま帰宅した。疲れて動けないかと思ったけど、非日常の空気に当てられているのか普通に帰宅できた。駅近のオートロックマンションだ。
「心配したのよ! 遅かったわね。大丈夫だった?」
家で待っていたのは両親だった。
いつも父は眠っている時間なのだが、珍しく両親揃っていた。
「あー、大丈夫だよ。バイトが少し長引いてね」
あの戦闘自体はそんなに長くかかったわけじゃない。バイトが少し長引いてしまうことはちょくちょくあることだし、これで大丈夫だろう。
「違うわよ。あの声のことよ。ニュースはそればっかりよ! お父さんも心配してこうしているんだから」
「無事でよかった。こういう時はさっさと寝るに限る」
父は端的にそういって自室に戻って行った。
父は陽気だが寡黙な人だった。
「え、あー、あれ? なんか幻聴かと思ったよ。バイトで疲れてたし、ウェブ小説みたいだったからさ。まじなの? あれ」
「あー、あなたが好きな小説ね。テレビでもなんかいってたわよ。怖いわよね。今日はもう寝られないわよ。ニュースをチェックしないと」
「寝てね。なるようになるさ」
父を真似て俺もそう言う。
「はぁ、まぁいいわ。こういうときはさっさとご飯を食べて寝ましょうだったわね! さぁささっさと食べて、スマホはいじらないでよ」
親のご飯を食べながら騒がしいテレビニュースをみて、いつも通りに俺は自分の部屋で眠りについた。
ちらっとみたテレビじゃ特に魔物に関してはやってなかったな。声についてだけだった。その声もダンジョンシステムが導入されたってことだけでサンベンダーという能力については何も言ってなかったな。後半の声は俺だけに聞こえてたみたいだな。
魔物はまだ確認されてないのだろうか。家に着いてほっとした俺は今はただ眠りたかった。
あの怪物との戦いや報酬の確認はまた明日と、そう思ったのだ。
そして朝、世界が変わってはじめての朝。
ビリビリという音で俺は目を覚ます。
肉体が変化しているのがわかる。
窓、カーテンの隙間から入ってくる太陽の光によって俺の肉体はムキムキマッチョと化した。
フリーターの細い体からどこかの美術館で飾られた彫刻のような美しい生命として理想的な肉体へ。
どこの外国人かと思う体格の良さになっていた。
結果としてきていた服が破けた……バイト代で買ったリカバリースーツと呼ばれる疲労回復を助けるヒートテックみたいなお互いハイテク服だったのだが。
「どういうことだよ?」
いや、これがサンベンダーとやらの力なのだろう。
俺はとりあえず急いで部屋の鍵を閉めようとする。異様に部屋の扉までが早くついたことに気づく前に掴んだ扉の鍵のつまみがねじ切れた。
金属でできてるはずだぞ。下手したら飴細工だって捻じ切るのに苦労するはずの現代ボーイの俺がこれか。
「は?」
扉の前でしばし、唖然としていると体から徐々に力が抜けていくのがわかる。細い元の体に戻ったのだ。
「よかった、ひとまず元にもどれたか」
細い腕に戻った。
どうやら日光を浴びずにいると戻れるようだ。
とりあえずつまみの件は置いといてこの不思議パワーについて調べなければ。
何か今までにない感覚が俺の中にあった。
しばし、目を閉じて身体の中の不思議なエネルギーみたいなものに集中する。思えば戦闘後にすぐ帰って来れたのもこの不思議パワーのおかげのようだ。でなければ疲れて動けなかったはずである。
元の体への戻り方はなんとなくわかった。
ならあとは検証だ。
これは原因はわかっている。
窓の隙間から差し込む陽の光に手をかざす。
すると、どんどんと力が湧いてくる。
体の中の不思議パワーが充填されるのがわかる。そしてそれを全身へと行き渡らせれば、
ムキムキマッチョメンへと変身だ。
「これは太陽に関する変身能力か? 使い辛いな」
それが俺の思わず出た感想だった。
とんでもない現象で俺は混乱していた。なんか逆張りオタクみたいになっている気がする。
わー、いちいちムキムキマッチョに変化してたら大変だなーなんて発想しか出てきてない。
ただ深く本能的な何かが訴えてくる。
陽の光から感じるこのエネルギーは操作することで驚異的な身体能力の獲得や飛行、あの目玉の怪物みたいなレーザー放つとか色々なことができそうだということがわかる。
もっと集中するとなんとなくこの能力の使い方がわかる。大いなる魔法の力。あの魔物は地面に接した物から音を奪い、それを放つだけだったが、俺は何ができるだろうか。
「厨二病かよ。力、有り余りすぎて困る」
まずは力の抑え方を練習しなければならないだろう。
「まてまてまてまて、おかしいだろ」
一旦、深呼吸。深呼吸。
そして吸って吸って吸って、言葉が出る。
「すっげーーーー! サン・ベンダー・タカシ爆誕ってやつか」
サン・ベンダー・タカシ
うん、ダサいな。
とりあえずスマホでSNSで調べるか、いや、その前に親になんて言おう……正直に伝えないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます