2話 初魔物との戦闘
「うわっ! 〜〜〜!(いてっ、マジかよ! あれ!? 音が一瞬?)
目玉クラゲがレーザーとでもいうべきものを発射した。拳大程度のあの目玉の大きさからは細い線だったが、目で見えて赤い摩訶不思議な光線だった。
それは俺が慌てて飛びこんで倒れ込まなければ心臓の位置に当たっていただろうと思う。
咄嗟に飛んで倒れたせいで手が痛いし、顎も軽く地面に打ちつけたぞ。
「〜〜!(きっとあの怪物が音を奪っている!)〜〜?(レーザー攻撃の余波で音が復活したのか?)」
混乱の中、俺は思考を巡らせていた。音のない世界で自分の口を動かしているがちゃんと話せているのかもわからなくなってきた。
これは幻覚や夢なのか? だとしたら俺はとんだサブカル脳だ。
そんな現実逃避的な現実感のない思考が頭を駆け回る。
「〜〜!(落ち着け! 落ち着くんだ! 考えろ! 油断したら死ぬぞ)」
このまま土手の傾斜で俺が地面に倒れていれば奴はこちらを狙えないし撃てないはず。威力が高ければこんな地面は貫通する可能性はあるだろうか? そもそもあのレーザーを乱射されたらどうする。
深呼吸、体の震えを抑える。
走って逃げるか? いや、距離を取ったところであのレーザーで死ぬ。土手の反対側に逃げる? 他の住人はどうなる?
ここは住宅街だぞ! 何故か俺を狙っているけど、逃げた俺を追って土手を超えたらみんなやられるかも!
まるで走馬灯のように記憶が流れる。
死の危険に瀕して思考が加速する。
海外の銃乱射のニュースを思い出す。そんな現場に巻き込まれたらどうするべきかなんてありえない話。
屈んで逃げろ、逃げられないなら伏せていろなんて元軍人が話してた姿。あと犯人の方を直接見るな、鏡とかスマホで、反射を使えって話もしてたっけ。
確かに土手から頭を出してまたあのクラゲを見るのはとんでもなく恐ろしい。使えないスマホを出して手だけ出して画面の反射で奴を見れないか確認する。
目玉クラゲは変わらず俺を見ていた。
そしてまた輝き出した!
「〜〜!(マジかよ!またかよ!)」
俺は咄嗟に寝返りを試みる。
何かが焦げるような匂いがする。
俺の元いた位置には細い赤い光線と煙と穴が見えた。
光線は消えて、穴だけが残される。
その穴の位置は寝返りを打つ前は俺の心臓のあった場所だとすぐに気づいた。
俺の呼吸は浅くなる。全く聞こえないがきっと俺の心臓は胸から飛び出るほどに鳴っているだろう。
目玉クラゲが放つ摩訶不思議レーザーは土やコンクリートの地面という遮蔽物を貫通して俺の心臓を狙うことがわかった。
「〜〜?(奴はどうして俺を狙える?)〜〜?(照射の時には音が復活するわけじゃないのか?)」
考えろ!
死を前に俺は必死に考えた。一つ一つわかっていることを並べる。
奴は音を奪う。狙いは心臓。光線を撃つ時は光る。2回撃って輝いてから発射までタイミングは同じだった。本体の動きは遅い。怪物。
そうだ怪物だ!
どんな理屈でもいい奴の生態、弱点を考えろ!
殺し方を考えろ!
やらなきゃやられる。
音を奪う。なら音関連、なら奪った音を理解する? なら心臓の音を聞いている?
どうやって?
理屈はいまはおいとけ!
ここで俺は過去の記憶が蘇っていた。
それはなんてことはない遊びの記憶。
死にゲーなんて言われてるゲームで遊んでいた時の記憶だ。強大な怪物を剣と盾しか持ってないような貧弱なキャラクターが何度も、何度も死にながら挑み、倒すゲーム。
そこで俺はクリアまでにあることを学んだ。
敵のパターンを学び、確実に敵の攻撃を避け、倒す、そんなこと。
もっと言えば気持ちで負けるな、倒せると信じろという気持ち。
あれだどんな怪物も必ず殺せると思えというやつである。
「〜〜!(うぉー!遮蔽は意味がないならとりあえず奴に近づくしかない!」
俺は立ち上がって土手を降り始めた。
こけないようにゆっくりだが。
怪物に近づくために。
明らかに俺は死の恐怖を前に混乱していた。
だがそれが良かったのだろう。
目玉は土手を下る俺を見続ける。
そしたまた輝き出す。
3度目だ。
俺はレーザーを避けるためタイミングよく飛んだ!
「〜!(今だ!)ひぇ! 〜〜!?(音が!?)」
シュピーンという空間を切り裂くレーザーの音に思わず悲鳴を上げたが、俺が飛んだ瞬間、世界に音が戻った。
「あー、〜〜、あー、〜〜(そういうことだったのか!)」
土手を下った俺は走り始める。
すると音が一瞬復活する。
どういう理屈か知らないが、地面に足をつけている時に限り、俺の音が奪われている!
走っていれば目玉クラゲのレーザーは当たらなかった。タイミングよく避ければやつは俺の心臓にレーザーを当てられなかった。
そして河川敷の落ちている石を目玉に向かって何回も何回も投げれば目玉クラゲは死んだ。
投石の威力は人の命を容易く奪うって聞いたことはあったが怪物の命も容易く奪った。
目玉だし防御力ゼロだったのだろうか?
怪物は死ぬと光の粒子となり消えていた。
「もしかして見た目に反して雑魚だったのか? レーザーはやばかったけど冷静になれば当たらないしな。というかいったい、何だったんだよ」
俺は倒れ込みつつそんな言葉が漏れていた。
やったー!倒したぞ!
なんて呑気に言えなかった。命をかけた戦いなんてはじめてのことだ。
疲れ切った俺の脳内に声が聞こえてきた。
ー魔物が出現した地球の皆様へ。地球初の討伐者を確認。討伐者には報酬が与えられます。加えて地球への報酬としてダンジョンシステムが導入されました。ー
『初討伐者へ。討伐おめでとうございます。地球初討伐者には報酬が送られます。初討伐者には討伐した魔物アース・ベンダー・アイにちなんで「サン・ベンダー」能力が送られます。この能力はダンジョンシステムとは別枠となっています』
「はい? まじかよ。どういうこと? 何者? というか、ちなんでってなんだよ! 固定報酬じゃないのかよ」
混乱する頭は口から謎のツッコミを繰り出させる。仰向けに夜空を見上げながら口だけは動いていた。
「ダンジョン? ファンタジーってこと?」
ウェブ小説でよくある話なのは俺も知っている。しかし、どこからも返事はなかった。
「おーい、失礼いたしました。返事をくださいませんか〜、ダメか。あ、スマホが復活してる!? よかったー」
どこからも返事はなかった。
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