本を愛しすぎた男

猫姫花

第1話 眷属:暗がりの騎士

 ダイヤル式の電話の受話器を置いて、通話を区切る。


長い金髪に水色の目を持つ美女が、溜息を吐いてデスクの椅子によりかかった。お茶汲み係の妹分が、どうしたんです?と言いながらミルクティーを差し出す。仕事が入ったわ、とデスクに置かれたカップで両手を温める金髪美女。


 どんな?とお茶汲み係が言いながら、上生菓子の小皿をデスクに添えた。


「怪盗花猫から、犯行予告が入った、って。警察に同行することになる」


 上生菓子をほぼひとくちで食べて、ミルクティーで流し込む金髪美女。髪の毛を結び、気合を入れて立ち上がると、コートを着る。


「しばらく席を空けるかもしれないから、その報せ頼むわ。私が出る。大きなヤマだわ」


 キャスケットをかぶり、自分で扉を開けて「行ってくる」と声を透す。

お茶汲み係が、「戻って来ますよね・・・?」と少し不安そうに聞いた。

金髪美女は「分からないわ」と笑顔を向けて、キャスケットのつばを直した。

外に出て放られた扉が自動的に戻っていくのを見つめて、妹分が口をすぼめる。


 『 探偵社キャトフル・キャトエル 』の所長兼社員、それが金髪美女の立場だ。


 依頼現場の博物館に到着して、担当警察官に挨拶をするため歩み寄る。けっこうな美男子ね、とぼやく彼女に、階段を小走りに駆け下りて来る刑事ひとり。軽く握手をして、自己紹介。


「電話に出た、ナイト・ヴィヴァイア?」


「探偵のナイト・ヴィヴァイアです」


「本名?」


「ええ、そちらのお名前は?」


「ああ、担当刑事になります、マックス・スワロン」


「よろしく。もしかして年下?」


「僕は見た目より案外と年寄りです」


「二十五くらいにしか見えないけど?」


「十分でしょう?」

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