不遇な盾持ち探索者、コツコツと成り上がる

Kouei

不遇な盾持ち探索者、変わる日常

第1話 不遇な盾持ち探索者、兼底辺ファイター

 ここはVR闘技場、ある日突然現代に現れたダンジョンを探索する者たち、そのまま探索者達が本格的な戦闘を行うために作られた、現代と魔法技術の合作にして人類を熱狂させて止まない、現代のコロッセオである。


 その舞台で二人の男が戦闘を行なっていた。いや、戦闘と呼べるほど上等なものではない。片や適当に剣を振り回してるようにしか見えず、もう片方はそれを盾で全部防いでいるだけである。

 盾を構える男の名前は北条盾ほうじょう じゅん、不人気な盾を装備し、グループを組んで探索することが常識なダンジョンにて、低層をソロでふらふらと歩き回って当面の生活費を稼ぐ所謂底辺探索者である。


 相手の攻撃を全部防ぎ、隙を突くなり相手の動きが鈍るのを待ってからトドメを刺せばそのまま勝利、常識的に考えればそうである筈なのだが、なんと盾でしっかりと防いでいるジュンの方が劣勢なのである。


『凄い!凄いぞリョウ選手!激しい攻撃に対戦相手のジュン選手は手も足も出ない!みるみるとポイントが減っていく!減っていく!減って……削りきったぁあああ!!』


 ルールとして相手の何処を攻撃しても相手の持ちポイントが減る、勿論盾や鎧の上であれば減少量も少ないが、反撃など何もしないのであれば何の気休めにもならない。

 そうしてジュンは一度も攻撃をすることも無く、一度もその身に攻撃を受けることも無く、今日の試合が終わったのであった。

 実況が盛り上げようと必死に声を張り上げ会場を盛り上げようとするが、切った張ったも無い、サンドバッグを攻撃するだけの光景が観客を沸かせる筈も無く会場はイマイチ盛り上がらなかった。


『……本日も素晴らしい戦いが繰り広げられました!

 この全力闘技に出場した両選手に惜しみない拍手をお願いします!!』


 司会もこの冷めた空気にかなり困っていたがなんとか締めの言葉を繰り出し、この舞台の幕を完全に下ろしたのであった。


「あのさぁ!!やる気が無いんなら試合に出るの辞めろよ!あんなつまらないワンサイドゲームを展開されたら俺の評判にも影響するだろうが!!」


 今日も無事に終わったな、と呑気に打ち合わせ用のチャットルームに帰ってきた盾に、対戦相手のリョウが声を掛けたのであった。


「いや、だったら攻撃を途中で緩めるなり、別の部位を狙うなりしてくれよ。真正面から盾をガンガン、ガンガン脳死で適当に殴られるのなら下手に何かするより、守りを固めた方が良いに決まってるだろ」


「これは試合なんだよ!!観客は派手な戦いを観たいんだよ!!盾なんか使わずに、ギリギリで避けるなりもっと速く攻撃するなりあんだろうが!!その剣は飾りかよ!!」


 そう激しい剣幕で吠えられて居るが、ジュンには何一つ響かなかった。

 そもそも本来の戦闘であれば自分の体力も考慮せずに攻撃をし続けている相手をいなし続け、動きが鈍ったところでトドメを刺すのが盾持ちの基本である。

 機も無く無駄に攻めて手痛い反撃を許すのは我慢ならないのだ。


「はぁ、分かった分かった。だからもう遅いから落とさせてくれ」


 どう考えても火に油を注ぐ発言でしか無いのだが、実際もう既に夜の十一時、対戦後のマナーから入室しただけのジュンからすれば無言落ちしたいくらいである。

 それを聞いた相手も舌打ちを一つして、先に落ちたのであった。相手も明日は探索するのであろう。たぶん。


 その後今日のファイトマネーが入金されたのを確認したジュンは、明日の予定を確認することにした。

 科学と魔力が合わさって作られたこのVR闘技場は装備の損耗も無く、仮に首に刃が通ったとしても死ぬことも無い(無論一撃KO判定だし、死の感覚を味わうことになるから死ぬ程ゴメンだが)ことから、小遣い稼ぎには丁度良いのだ。

 底辺ファイターの彼だと一週間は普通に食べられる程度の賃金しか支払われないし、その人気の無さから滅多に出場させられることもないが。


(明日は東京ダンジョンで適当に魔石を集めて、装備の点検……、いや最早買い替えか?これ

 ……取り敢えずその費用を集める事に精を出さなきゃな)


 そう明日の予定を確認、修正して今日は眠りにつくのであった。

 まさか、その明日が生涯二度と忘れることの無い日になるとは、露とも思わずに……。

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