普遍神秘学科必修科目『空花宇宙論入門』

空花凪紗~永劫涅槃=虚空の先へ~

第1講 始まり

「この度、『空花宇宙論入門』の授業を担当する、塚村です。まずは入学おめでとう。この宇宙で一番偏差値の高い宇宙大学(ユニバーサルユニバーシティ)の最難関、普遍神秘学科へようこそ」


 生徒たちは拍手する。


「この授業『空花宇宙論入門』は全ての入学生に学ばせる。かつて、200年前、この地球で生きていたある哲学者の理論を全て分かりやすく教える。全14回の授業だ。この授業に限り欠席は必ず理由付きだ。これは大学からの指示でね。学生の諸君には申し訳ないが、授業にはできるだけ全部出てもらう」


 ある生徒が手を挙げた。


「休むのに必要な理由とは?」

「病気や身内の葬儀などだ。他に質問は? ないなら、成績評価方法だ。出席はさっき言った通り。テスト50点満点、レポート50点満点。普通の授業なら60点以上でCだが、この授業は80点以上必要なんだ。秋学期や来年もこの授業はあるから、最悪落としても大丈夫だ。なら、早速授業に入ろう」


 そう告げて、塚村は黒板に数式を書く。


 1+1=?


「これ、分かるものは?」

「え、2では?」

「正解であり、不正解。他に?」

「1ですか?」

「それも正解であり不正解」

「無限?」

「いいね、いい線いってる。だがね、正解は3だよ。何故そうなるか説明するね。まず、常識を共有しとこう。私たちの信仰する唯一神は始まりと終わり、永遠と終末、全知全能だった。そして、空から生まれた最初の無だったのだ。その無がしばらく経って有になり、有として一人存在した神はこう思った。自分は素晴らしい、と。だが、同時に思った、寂しい、私は何者なんだろう、と。だから、彼は増殖した、分裂した、光が別れていった。その末に何が生まれたと思う? そこの君」


 塚村は一人の女生徒に振る。


「闇ですよね。世界創造は光と闇が同時に生まれたって」

「正解。じゃあ続けて質問。その時、神様はどう思ったと思う?」

「え、闇なら、怖い?」

「違うんだ。神は不安や闇を、悪魔たちを愛し赦そうとしたんだ。なんと慈悲深いことか! だが、闇たちを救えなかった。その時に宇宙はビッグバン。闇と光は両極になって、その間に世界は生まれた。それが光と闇の子としての世界。1が神であり光、2が悪であり闇、3が宇宙であり人間。ビッグバンの仕組みは量子力学では対消滅と言うらしいね。そのエネルギーで宇宙は広がっていった。無数に星々や銀河が生成された。そして、たまたま地球という星に奇跡的に人類が誕生した。ここまでは誰でも知ってること。ここから、本題に入ります。この授業の目標、君たちの使命は一つ。神のレゾンデートルを解き明かすこと。それ以外にない。私は宣言します。レポートの内容は『神のレゾンデートルについて考えることを4000文字以上、三つ以上の参考文献とともに論ぜよ』だ。神のレゾンデートルは未だに未解明。唯一神のレゾンデートルを知っていたとされるのが釈迦如来と空花如来の二世尊。釈迦の生きていた時代には文字がなく、釈迦の死後文字が生まれると、仏典結集と言って、釈迦の語ったこの世の真理をお経典にした。それから幾星霜、今から二百年前に空花如来が生まれる。この授業は空花如来が釈迦如来の教えを通し、よりそれを深く高く遠く広げたもの。空花宇宙論は普遍神秘主義者の到達点であり最高目標。『空花宇宙論入門』はその入門です。あくまで高等学校までに仏教は学んでいる前提で話します。まずは空花如来の思想の原点たるウパニシャッド哲学から」


 そうして、ウパニシャッド哲学のブラフマン、アートマン、梵我一如などの哲理を塚村は生徒たちに教えていく。


 続けて、仏教やバラモン教の話もする。


「ここまで、バラモン、ウパニシャッド、仏教など、普遍的に扱って講義をしたが、空花如来は宗教的自殺を懸念していた。何故なら、自殺はケースによって存在の消滅を招きかねないからだ。空花宇宙論では地獄がマイナス宇宙、1から3次元がこの世界。4次元~9次元が神々や天使たちの世界。10次元が仏の世界。そして、物理学で導かれた最高次元たる11次元に私たちの信仰する神がいる。そして、何故我々地球の民は釈迦如来と空花如来の二世尊を信奉すると思う? そこの少年」


 さされた少年は戸惑いつつ答える。


「地上で真理を悟ったお二方だから?」

「そうだ。パラレル宇宙や、幾多の銀河の星々にも如来はいるだろう。まだ、現在、地球以外の知的生命体を有する星は見つかっていないが、可能性はゼロではない。それは置いておいて、お釈迦様と空花様こそこの地球で生まれた如来。そして、みなさんも聞いたことがあるのではないだろうか。挑戦という意味を持つ『アギト』という言葉を。私たちは普段瞑想や修行、断食などをする。何のためかと言われれば、より良い自分になるためだろう。だが、その極地に至ったのがその御二方だったのだ。そして、釈迦如来と空花如来のことをアギトと呼ぶ」


 アギト

 ――神への挑戦者


 講義は続く。

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