第4話 『異世界初日がチュートリアルじゃなかった件』
体が、空気に放り投げられたみたいに軽かった。
光の底から強制的に押し出され――
気づいたときには、青空の真下にいた。
視界がぐるんと回る。
重力がどっちにあるのか分からない。
地面のほうが先に私を見つけた。
「ちょ、ま、むりむりむり――!!」
ドサッ!
背中に直撃する衝撃。
痛い。普通に痛い。
異世界ってもっとこう……ふわっと着地するんじゃないの?
風、鳥、草の匂い。
全部“現実”すぎて現実に感じない。
(ほんとに異世界じゃん……)
呟きつつスカートを払う。ひざ上まで汚れてる。
右肘も擦りむけていた。
異世界転生して即負傷って絶対テンプレじゃない。
「……ん?」
草むらの先で、何かが“ぷるん”と揺れた。
ぬるっとした音。
光を反射する半透明。
丸い。揺れる。青い。
(いや待て……これは……)
「スライムじゃん!!!」
――テンプレ開幕。
そしてスライムは、ゆっくり確実にこっちへ。
「ち、ちょっと待って!
序盤で地味に危険なやつだよね!?
私なんにも持ってないんだけど!?
武器どこ!?ねえ神!!聞こえてる!!?」
返事など来るはずもなく、スライムはさらに距離を詰め、
ピチャッ。
足元に跳ねる。
「ひっ……!!」
(いやいやいやいや!?
刺されて死んだ次、溶かされて死ぬの!?
死因ローテーションするゲームじゃないんだけど!?)
「そこまでだ!!」
空気を裂く声。
キラッと金属が光り、草むらの向こうから現れたのは――
勇者(ただしモブ)。
量産型。完全に量産型。
剣も盾も平均値みたいな装備。
「大丈夫か、そこの娘!」
テンプレみたいな台詞に、逆に安心する。
「あ、助け――」
言い切る前に、スライムが真っ二つ。
しゅん、と溶けて消えた。
「よし、安全だ!」
ドヤ顔。なのに顔はとても普通。
「ありがとうございます……」
膝が少し震える。
刺されて死んだ記憶が、まだ体のどこかに残っていた。
「見ない服だな? 旅人か?」
「あ、その……転生してきて……」
「転……せ?」
勇者モブは一瞬固まってから、
「まあいい!村はあっちだ、気をつけて行けよ!」
「え、あの、私、仲間――」
「じゃあな!」
問答無用で去っていった。
(仲間にならないんかい!!
この流れ、普通一緒に来るだろ!!)
ツッコミが出るくらいには落ち着いてきた。
仕方なく村の方向へ歩く。
◇
村に足を踏み入れると、空気ががらっと変わった。
子どもが走り、店に野菜が並び、羊っぽい生き物が歩いている。
THE・異世界。
これでもかってほどの異世界。
「すみませ――」
「そこの娘!!止まれ!!」
急に怒鳴られた。
数人の衛兵に囲まれる。
「見ろ、その服装!」
「間違いない、“魔族の間者”だ!」
「……はい???」
話が分からない。
「連れていけ!!」
「いやちょっと待って!?
私ほんとに何もしてない!!
転生しただけ!!ただの新規ユーザー!!」
叫んでも無駄だった。
あっという間に両腕を掴まれ、
連れていかれた先は村の中心――
どう見ても牢屋。
ガチャッ。
鉄格子が閉められる。
「ここで大人しくしていろ、怪しい娘め!」
「怪しくない!!ただの異世界初心者!!」
返事はなし。
鉄格子にもたれて、深くため息をつく。
「……開始早々牢屋って、どんなチュートリアル?」
誰も答えない。
でも、少し笑ってしまった。
(異世界って……もっと優しく迎えるんじゃなかったっけ……)
転生初日。
牢屋でひとり座り込む。
(……これからどうすんの私)
そんな独り言だけが、牢の中に静かに落ちた。
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