第3話 目撃されたんだけど!?
「こら! アルト様、けしからんですよ!!」
ええええええ!?
声のする方向に急いで視線を向けると、アリアが腰に手を当てながら立っていた。
メイド服が似合うような華奢な体型に、内巻きな栗色のショートヘア。
それがぷんすかぷんすかという感じで揺れていて、正直覇気が半端ない……。
俺は急いで水無瀬さんの下から抜けて、
「アリア、これはちがっ――」
「なにが違うんですか! 今しがたキ、キスしたんじゃないですか!?」
「キスというか、その……そう! 人工呼吸だよ! この子さっき浴槽で溺れてたから!」
「いーや、キスだよ♡ 春人くん」
「水無瀬さんは黙っててくださいよ!」
「ほら! やはりキスじゃないですか! なにその雑な誤魔化し方!」
「春人くん、ひどい……黙れだなんて……」
もうやだ。
なにこの修羅場。
アリアとは小さい頃からずっと一緒にいるのに、こんな声を荒らげるところは見たことがない。
「お、落ち着け2人とも! これは誤解なんだ!」
「なにが誤解ですか、アルト様! 愛人を連れ込むなんて見損ないましたよ!」
「それこそ誤解なんだよ! 話を聞いてくれ! アリア!」
「ふーん、この子が春人くんの今の彼女ですか……」
「か、彼女だなんて……!」
気のせいか、アリアの顔はかあと赤くなっていた。
まるで熱したやかんみたいに、水蒸気が立ちのぼるのが見えそうだ。
「彼女がいてもわたしは諦めないわ」
そう呟く水無瀬さんの目はなにかに取り憑かれたみたいに異質な光を放っていた。
「アルト様は私のご主人様です!」
「ご主人様って……春人くんはそんなプレイが好きだったの……?」
「引くな! というかさっき説明しただろうが!」
いつの間に俺を含めて3人ともはあはあと息を切らしていた。
「……とりあえず、落ち着こう」
と言うわけで、一拍を置いて姿勢を正した。水無瀬さんは少し俺から離れた場所に座っていて、アリアはベッドの下で正座している。
「あらためまして、私はアルト様の専属メイドのアリアです。先程は見苦しいところをお見せしました」
「こちらこそ、わたしは春人くんのクラスメイトの水無瀬、水無瀬めぐりです」
「クラスメイト? ってなんですか?」
「夫婦みたいなものです」
「夫婦……!?」
「こら、ちゃっかり変なことを教えないで、水無瀬さん!」
それから俺は自分が元は日本人で、トラックに轢かれて転生していまアルト・ヴァルディアになったということをアリアに説明した。
「……つまりアルト様はほんとはハルト様で、もとは違う世界にいて、そのトラック? というものに轢かれてこちらの世界に生まれ変わったということですか?」
「うーん、簡単に言うとそんな感じかな」
正直、こんな話されても信じてくれないだろうと思っていたけど、アリアは案外飲み込みが早かった。
「それで、こちらの方とはそのクラスメイトというただの他人でしたのね」
うん?
なんか妙にトゲを感じるな。
「他人ではないよ、わたしは春人くんと同じ空間で空気を吸っていたの」
「そ、それなら私はアルト様と同じベッドで寝たこともありますよ!」
「へー、そうなんだ……でも、わたしは春人くんにシャーペンを貸したこともあるよ?」
「シャーペン? そ、それなら私はアルト様のパンツを洗ったこともありますから!」
「……春人くん、あとでお話があります」
「ち、違うんだ! 一緒に寝たのは小さい頃で、パンツを洗ってくれたのもメイドのお仕事だからであってだな――」
「そんなこと言うんですね……アルト様」
一人でとんでもないことを言い出したアリアの話に補足を入れると、なぜかアリアは悲しそうな表情を浮かべていた。
「分かったわ、春人くん、わたしも春人くんのメイドにして」
「え?」
「春人くんのパンツを他の人が洗うなんて許せないもの」
「そこ!?」
「春人くんのフェロモンが付いたいやらしいおパンツを、ほかのメイドさんがこっそりニヤッとした顔でくんくんするのは耐えられないから」
「わ、私くんくんなんてしてません! たぶん……」
うん?
たぶん?
「わたし、どうやらこの世界で行く宛てがないみたいだから、お願い、わたしを雇って? 春人くん」
「受けて立とうじゃありませんか! アルト様、私からもお願いします、この方を雇って私と勝負させてください!」
「勝負って……」
やれやれ……どうしてこうなったのやら。
確かに水無瀬さんをほっぽり出すことはできないよな……。
「分かった……明日から水無瀬さんにこの屋敷で働いてもらうよ。それで今日はもう遅いから、アリア、水無瀬さんを客室に案内してあげて」
「わたしは春人くんと一緒のベッドで寝るわ」
「え?」
「それなら私もアルト様と一緒のベッドで寝ます! いいでしょう? アルト様!」
「え?」
「もう眠いわ、先に寝るね。おやすみ、春人くん」
「私も明日早いからもう寝ますね! おやすみなさいアルト様」
え?
なんで俺を挟むような形で2人が横になってるの?
メイド服シワになるよ?
いや、そこじゃないか……。
なぜか、俺――ハルト・ヴァルディアはこの日を境に、水無瀬さんとアリアと奇妙な同棲生活が始まったのだった。
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