第2話 押し倒さたんだけど!?
こうなったら仕方ない。
俺にも尊厳というものがある。
水無瀬さんには悪いが、攻撃の魔法ではなく、相手を無力化するだけのものならあるいは。
「ごめん水無瀬さん!
すると、周囲の湯が渦を巻き、龍の形を作りながら水無瀬さんへと絡みついた。
「く、くるしいよ……春人くん……」
ええ、魔法の出力を最小限にしてるのに、そんなはずは……。
「あん♡」
艶かしいほどの吐息を漏らして、水無瀬さんは身をよじる。
「それ、絶対俺を誘惑してるやつだよな……?」
「ばれた?♡」
お湯に拘束されているというのに、器用にてへぺろをしてのけた水無瀬さん。
それを見て思わずぞっとした。
「と、とにかく、えっちなことはだめだから、大人しくしてくれたら解放するけど」
「……わかった」
しばしの沈黙があった後、水無瀬さんは諦めたように呟くように返事した。
それを聞いて俺も一安心だ。
「びしょびしょになっちゃった……」
「あっ……」
魔法を解除したら、俺もようやくことの重大さに気づいた。
制服を着ている水無瀬さんはさっきまでぎりぎりのところで、スカートが少ししかお湯に浸かっていなかったけど、今は全身がびしょ濡れになっていた。
そのせいで、ブラウスが大変なことに。
誰のせいだと言われたら、確かに俺が原因なのだが、それも水無瀬さんが変になっていたからであって……。
「……とりあえずここから出ようか」
メイドに水無瀬さんの着替えを用意してもらって、別々に着替えたあと、俺は水無瀬さんを伴って自室に戻った。
途中水無瀬さんが春人くんって呼んでいるのをメイドがおかしく思ったところ、
「この子、田舎者だから訛りが……」
と誤魔化しておいた。
その際、水無瀬さんにすごい睨まれたが、気にしたら負けだ。
「状況を整理したいと思う……ただその前に、近くない?」
「そんなことないと思うよ?」
いやいやおかしいだろう!
俺のベッドは控えめに言って日本で言うキングサイズだ。
なのに、なんで俺にくっついて座ってるの?
「なんで水無瀬さんがこの世界にいるの?」
でも、ここも気にしたら負けだから、俺は話を続けた。
「えっとね、春人くんがトラックに轢かれて、病院に搬送されたけど、その時はすでに息がなかったの。そのとき、わたしすごく絶望したよ。それから1週間塞ぎ込んでいて、やっと学校にいけるようになって、そしたら校門を超えたら眩しい光に包まれて気づいたらここにいたの」
「俺ってやっぱり死んでいたのか」
そりゃそうよね。
死んでいなければこうやって転生することもなかったわけで。
にしても、他の人にはっきりと死んだと言われるとそれはそれでなんか受け入れ難いと思うような。
「つぎ、わたしから質問してもいい?」
「あっ、どうぞ」
「さっきの女の子ってだれ?」
うん?
てっきりなんで死んだはずの俺がなんでまだ生きてるとかここはどこみたいなことを聞かれると思って身構えていたけど、なぜだかメイドのことを聞かれてしまった。
「アリアだよ、俺の使用人のメイドさん」
「へー、女の子をメイドにしてるんだー」
ちょっと待って!
その言い方だと俺がえっちいことしてるみたいじゃん。
「ストップ! 水無瀬さん、今の状況分かってる!?」
「ううん、ぜんぜん」
「あのね、俺は死んだ後この世界、つまり地球でいう異世界に転生したんだ。なんか、ほら、俺貴族なんだからさ、メイドも普通にいるわけで――」
そう言いかけて、ひとつの疑問が浮かんだ。
そう、確かに俺は転生している。
だから、俺の顔は前世とは違うはずなのに、どうして水無瀬さんは一目で俺だと分かったのか。
「えっと……テンセイ?」
そのことについて聞こうとしたけど、今はやめとこう。
水無瀬さんにとって今は情報量が多すぎて飲み込めずにいる。
「でもさ、そのアリアって子、すごく可愛かった……」
なぜかアリアのことを気にする水無瀬さん。
心なしか、少し寂しそうな顔をしている。
まあ、確かに、アリアは俺と同い年という理由で、専属メイドになっているけど、俺から見てもアリアは美少女だ。
「み、水無瀬さんもすごく、その、可愛いと思うよ?」
慰めるのではなく、俺の感想をそのまま言うつもりで話したのだけど、水無瀬さんの表情はぱあと明るくなった。
「嬉しい……ねぇ、春人くん」
「うん?」
「いつまでじらすつもりなの?」
「え?」
いつもの清楚な水無瀬さんに戻ってよかったぁ、と思ってほっとしたけど、どうやら違ったみたい。
気がつくと俺は水無瀬さんに押し倒されていた。
「あの、水無瀬さん?」
「あは、余裕あるんだ♡」
「余裕というか、事態が飲み込めないというかなんというか……」
「わたしじゃいや……?」
「そんなことはないけど……でも俺たちただのクラスメイトだよね?」
まして、今はクラスメイトですらない。
「死んだはずの春人くんに会えたから、今度こそ――」
そう言って、水無瀬さんの唇が俺のそれに触れていた。
この時の俺はまだ知らない。
抵抗しなかったことを後悔する日が来ることを。
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