貴族に転生した俺のところに、事故から庇ったクラス一の美少女が日本から転移してきたんだけど!? 〜清楚だと思っていた水無瀬さんは実は肉食だった件〜
月城メロン
第1話 抱きしめられんだけど!?
「ふう……快適であるな」
浴槽に浸かりながら、俺は一日の疲れを癒していた。
浴槽と言っても、それは浴場にあるものと同じくらいの広さ。
白い背景をベースに、獅子の頭を模した彫刻からお湯が絶えずに注がれていた。
「アルスの野郎、剣術の指南とかいって、あれはもう体罰だよほんと」
腕にあるまだ出来たてのアザを見てぼやいてはみたものの、それもお湯に浸かると、じんという痛みとともにほどよい幸福感に包まれた。
ある意味俺ってマゾなのかもね、とか思ったりして。
にしても、もう転生してから16年経つのか……。
そう、俺はもともと日本人だ。
それも高校1年生だった。
あの日の事故で、俺は死んだ、はずだった。
しかし、目覚めると俺は赤ちゃんになっていた。
どうやら、俺は日本とは別の異世界のヴァルディア伯爵家の長男――アルト・ヴァルディアに転生したらしい。
最初こそ戸惑っていたのだけど、案外今の人生も悪くないと思った。
確かに文明は中世レベルだし、食の種類も少ないが、慣れたら天国だ。
実際、家は裕福だし、まあ貴族だから、好き放題とは行かないまでもそれなりに使用人がいて生活に不便はなかった。
ただ、1つ心残りがあるとすれば――水無瀬さん、無事だったのかな……。
水無瀬めぐり、俺の前世のクラスメイトだ。控えめなストレートの黒髪に、透き通るような白い肌――なんてこんくらいしか記憶にない。
見たら思い出せると思うが、まあ、もう会う機会がないのだから、それも叶わない。
高校1年生の夏の終業式に、偶然同じ方向に歩いてた俺と水無瀬さん目掛けて、大きなトラックが突っ込んできた。
俺は咄嗟に水無瀬さんを突き飛ばして、そしてトラックに轢かれたのだが、現にこうして生きてるわけだし、残りの心配は水無瀬さんが無事だったかどうかだけだった。
「そろそろ出ようか」
長湯は苦手だから、のぼせる前にそろそろ上がろうと。
――この瞬間だった。
俺が意気揚々と立ち上がった瞬間、湯気の中から長い髪が揺れた。
「なにやつ!?」
一度言ってみたかったセリフをぶっぱなして、俺はタオルを両手で伸ばして臨戦態勢を取る。
まあ、どうせ新入りのメイドかなにかが間違って入ってきただけだと思うが、警戒するに越したことはない。
しかし、俺の予想に反して、懐かしい声が聞こえてきた。
「
「誰だ!? 俺はアルト! アルト・ヴァルディアであるぞ!」
あれ? ハルトって……?
俺の前世の名前じゃないか!
それに気づいた時はすでに遅かった。
湯気の向こうから、女の子らしき不審者が俺に向けて走ってきていた。
そして俺を抱きしめると――
「春人くん! 春人くん! 無事だったのね!」
咄嗟のことだったから、反応できなかったが、俺はすぐに気づいてしまった。
――いい匂いだ……!
前世の常識があるから、メイドとかに囲まれているのに手を出せないでいる俺には、女の子の匂いを直に嗅ぐのは……ってちがう!!
「み、なせさん……?」
「うん! うん! わたしだよ! 水無瀬めぐりだよ!」
その返事を聞いた瞬間、俺は思った。
――俺って今、フル〇ンじゃない?
「ちょっ! 待って! 待ってくれ、水無瀬さん!」
「待たない……もう待たない! 春人くんとはもう会えないと思っていたから……」
「いや、待って! いや、待って欲しい……というか待ってください……」
顔がかあって熱くなっているのに気づいて、俺は水無瀬さんの肩に両手を置いて急いでひっぺがそうとしたのだが、とき既に遅し。
「春人くん……これって……?」
だから言ったじゃん!!
俺待ってって言ったじゃん!!
16年間(前世を足したら32年間)女の子と密着した経験のない俺からしたら、憧れの人だった水無瀬さんに裸(俺だけ)で抱きしめられてると健全な男子としてはだな……。
急いで水無瀬さんを離して、タオルで大事な部分を隠したのだが、どうやら水無瀬さんの様子がおかしい。
「あっは〜ん♡」
指を口に添えて、軽く舌なめずりをする水無瀬さん。
気のせいだと思うが、その目はハートの形になっていた。
「水無瀬さん……?」
俺の記憶の中の水無瀬さんは、清楚な女の子だった。
優等生というのに相応しく、その成績はいつも学年上位だった。
そして、その端正な容姿から、水無瀬さんは陰から(主に男子)にクラス一の美少女と呼ばれていた。
なのに、今の水無瀬さんは、サラサラの黒髪と触れたら壊れそうな新雪で出来てるような肌は相も変わらず、記憶では思い出せなかったつぶらな瞳は少し狂気じみていた。
「もう逃さない、逃さないわ」
「お、落ち着け! 俺はアルト! アルト・ヴァルディア! 春人ではないっ!!」
「いーや、さっきわたしのこと、水無瀬さんって言ったよね?」
しまった!
自分で墓穴を掘ってしまった。
いつかまた会いたいと思っていた、憧れの人――水無瀬めぐり。
この16年間一度も忘れたことのない大切な人。
それがなぜか思わぬ再会を果たしてしまった。
そして、俺は思い知る。水無瀬めぐりという人間は――
とんでもなく嫉妬深く、独占欲の強い女の子だった。
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