第4話 酔剣と言われたんだけど!?

 一睡もできなかった。


 体の全身が覚醒していた。

 というか、主に体の一部が覚醒していた。


 美少女2人の寝相は、それはそれで大変問題があった。

 スカートの部分がめくれて、俺を抱きしめる感じで寝てるふたりの足は、俺の体の上に乗っかっている。


 そして、息が当たるほど、顔は至近距離にあった。

 頭が目眩しそうな女の子の香りに、俺は理性と戦うのに必死だった。


 というか2人はメイドじゃなかったっけ?

 なんで昼遅くまでぐうすか寝てるんだよ。


 俺の世話はアリアは一任されているから、ほかのメイドも起こしに来ないし、これじゃ怠惰と言われてもしかたがないというものだ。

 

「う……うん……そこはいやん♡ 春人くん」


「あるとちゃま……やめてくだちゃい♡」


 2人ともどんな夢を見ているのやら。

 寝言は寝て言えという言葉を思い出したが、寝てるのだからいいのかこれ?


 もうちょっと寝たい気持ちもあるけど、さすがにアルスの剣術指南に遅れちゃまずいから、俺は2人を起こさないように水無瀬さんとアリアの拘束から抜けて、


「こっそり抜け出すなんて許せないわ」


「そうですよ! 私を置いてどこか行くなんてお仕置きです!」


「おいおい、2人とも起きてたのか?」


「いーや、春人くんが抜け出そうとするからよ」


「そうです! アルト様のにおいを……じゃなくて、アルト様が動くからつい目が覚めました!」


 やれやれ、俺のせいですかそうですか。


「ともかく、俺は朝支度をしてアルスの剣術指南に行かなきゃならないから」


「アルス? だれよその女……」


「男だよ!!」


 しかもじじいだし。


 というか、何でもかんでも食いついてくるね、水無瀬さんは。

 相手は女の子どころか、剣で俺をいたぶるのが大好きなクソジジイなわけだけどね。


「私も見学してもいいですか?」


「うん? いいけど」


 っていうか、アリア、お前の仕事は?


「じゃ、わたしも♡」


「あっ、うん、はい」


 俺ってどうやら水無瀬さんに甘いみたい。

 ほんとはアルスに打ちのめされてるところを見たくないのだけど、そんな口調で言われたらやだとは言えないしね。




「アルト様、遅いぞ! たるんでおるわい!」


「悪い! ちょっと寝坊しちゃった!」


 ほんとは一睡もできてないのだけど、さすがにその状況をアルスには言えない。


「それでは始めますぞ!」


 アルスは木剣を構えた。

 その姿はかつて剣聖と言われた男に相応しく、オーラが漏れ出ていた。


 それに呼応して、俺も木剣を構える。


 その瞬間、


「行くぞ! アルト様!」


 アルスは踏み込んだ。

 縮地と言えるほどの華麗な足さばき。


 この瞬間、俺は諦めたように目を瞑った。


 あっ、今日もアザだらけになるのかな。

 そう考えるとちょっと憂鬱。


 というか眠い。

 まじで眠い。


 普通さ、貴族ってさ、もっと緩いのかと思ってた。

 日本にいた頃は毎日のように学校に通ってて、家に帰っても課題やらで全然休めなかった。


 だから、自分が貴族に転生したのだと分かった瞬間、やったー! と思ったものだ。

 それなのに、アルスはそれを許してくれなかった。


 というか眠い。

 足元がふらつくし、今にも意識が飛びそうだ。


「アルス様、ほほっ、これを避けるとは……ただ、甘いわ!」


 あっ、ふらついた。


「―――ッ!? ならばこれはどうだ!」


 このまま寝ようかな。

 どうせアルスには勝てないしな。


 あっ、あくび出そう。


「くっ……見事な一撃だった……ぐはっ!」


 うん?

 なんかいつまで経ってもアルスの剣撃が来ないな。


「さすが春人くん! かっこいい!」


「え、え、アルト様ってこんなに強かったの!? え、え?」


 2人とも何言ってるの?


 というか、どうなってるの?


 おそるおそる目を開けると、アルスは横たわっていた。


「見事だ、アルト様……このワシに一撃を入れるとはね、このアルス、感激の至りでございます」


 えええええええ!?

 どうなってるのこれ!!


 アルスに叩きのめされる覚悟を決めて目を閉じてうたた寝していただけなのに。

 あとあくびして手を思い切り伸ばしただけなのに!


「ふふっ、このワシに隠すとはね、アルト様は酔剣をマスターしていたとは……」


 す、酔剣!?

 なにそれすごそう!


「かつて東方の地に修行に出ていた時、このワシが見た酔剣そのものであるぞ!」


「す、酔剣!? アルト様すごい!」


「春人くんはいつも教室で寝ていたから、なるほど、酔剣の勉強だったのね!」


 やめて!

 友達がいないだけだからやめて!


 水無瀬さんよ、なにちゃっかり俺の黒歴史をほじくり返してんだよー。

 というか、腹抱えて笑ってないか?


 絶対確信犯だよねそれ!


「もうワシに教えることはない。今日から剣聖と名乗ることを許す!」


 いつの間にか立ち上がったアルスは拍手していた。


「春人くん、ふふっ、良かったね。剣聖だって」


 いつの間にか地面を笑いこける水無瀬さん。

 めちゃくちゃ恥ずかしいなこれ。


 どうしよう……。

 まじでどうしよう……。


 指南を受けてる時にうたた寝してかつて剣聖と呼ばれていた男を倒した(?)なんて、誰にも言えないぞ。

 というか水無瀬さんは分かってるみたいだけど。


 こうして、女の子に挟まれたことによって寝不足だった俺が剣聖となったのだった。




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