或阿呆の、おにぎりについての一考察

ミッカネズミ

或阿呆の、おにぎりについての一考察

 ーー丸もあるが、三角だ。三角のおにぎりだけが、僕の考察対象だ。

 何故かって? 簡単な事だ。


 丸というのは、正解という事だ。

 ただ単に整然せいぜんとした事実を並べて、何が面白い? それが人のする所業しょぎょうか?


 我々は、曖昧な世界にこそ住めど、整然とした世界とは無縁である。

 そんな我々が、どうして考察対象に丸いおにぎりというものを入れようか?


 三角というのは、正解にも、間違いにも近い形である。つまり、曖昧な形という事だ。

 この我が答案用紙における竹馬ちくばの友を、どうして見捨てる事が出来ようか?

 以上をもって、考察対象の形を三角のみとする。


 ーーうむ。我ながら完璧な理論だ。花丸の満点だ。


 さて、まずは名前だ。

 昔の有名な人は「名前が何だというの」だのなんだのと言っていたが、名前というものは間違いなく重要だ。


「おにぎり」

 3文字でも5文字でもなく、4文字。


 3文字だとあざとすぎる。ここあ、あんこ、こいぬ。

 だからと言って5文字だと、冷蔵庫や自動ドアの様に、締まりがない。

 4文字だから丁度いい。


 そして何より、「にぎり」に「お」をつけているところがミソだ。

 「お」を付ける事によって、意図的な可愛らしさというものを演出している。

 おそらく、女子ウケを狙っているのだろう。そうだろう、おにぎり君。


 そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな。おにぎり君よ。だが残念。もし勝負したら、僕の方がモテるぞ。絶対に。きっとそうに違いない。多分。


 まぁ、そんなことはどうでもいい。


 次に、その体型だ。正面から見ると、その隅に立派な角を立たせ、何人なんびとも近づきがたいオーラをその身にまとっている。しかし、横から見るとどうであろうか?


 ただただ、のっぺりとした、どこまでもだらしのない横顔が拝めるではないか!

 ありがたやありがたや。どうやら、幸運の女神は僕に微笑んでくれるらしい。

 これで僕も、枕を高くして眠る事が出来る。明日は良い一日になりそうだ。


 ーーいや、待て。これが噂に聞く「ギャップ萌え」というヤツか?


 いやはや、危うく騙されるところだったぞ。おにぎり君。君は随分と計算高い奴だな。その、バカみたいな横面よこづらを、公衆の面前にさらしていたのも計算の内か?


 海苔という化けの皮の裏に、案外えげつない本性を隠しているじゃないか。

 これはこれは、恐れ入った。


 そうか。完璧ではない人物は、得てして周りから愛されるというが、おにぎり君はその典型ではあるまいか。


 全く、気づいたのが僕だったからよかったものの、これが耐性のない女子だったらイチコロだぞ。

 君というヤツは、なんて危険な存在なんだ。


 それでは、君の本性とやらを見せてもらおう。さぁ、恥ずかしがる事は無い。その磯臭いヴェールを脱ぎたまえ。

 ーーほう。それまで隠していた白雪しらゆきの肌があらわとなり、ほのかに香る甘い匂いが、我が食欲を引き立てるではないか。


 君は、人をその気にさせるのが本当に上手いな。


 まるで陰と陽の様な、どこか神々しささえ感じる、この素晴らしき色彩の対比。そして、古来こらいより脈々みゃくみゃくと受け継がれてきた、大和民族の象徴。

 たとえ、ネズミ共にお礼を貰えるとしても、絶対に穴へ落としたりするものか!


 ーーふむ。やはり、君を選んだ僕の目に狂いはなかったようだ。


 かすかな破裂音と共に、舌の上に広がりゆくは、ほのかな甘みと、少しの塩味。

 これからもずっと、僕の人生の一部となりて、添い続けてくれたまえ。



 ーー!?


 何という事だ! 講義に出席し損ねて、貴重な単位を落としてしまったではないか! 全部君のせいだぞ。おにぎり君!

 我が親愛なる恩師よ! 今からいいものを落とすから、どうか単位を恵んではくれまいか! 食べかけだが、味は僕が保証しよう!



 ーーそれにしても、何と無益な事に、時間を浪費してしまったのであろうか。

 僕の貴重な時間を返してくれ。



 


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