D’arléの記録

水野祐斗

元・特務情報統制局(SIS) 隊員より



第一章:ルクセンブルクの地下と沈黙の神々


 私がかつて所属した「特務情報統制局(SIS)」は、人類史上最も深淵な秘密を抱えていた。

それは、1960年代から続く、ダルレ星という超高度文明との極秘接触の記録だ。彼らの故郷は、銀河中心へ向かう方向のG-47星群にあり、文明レベルはカルダシェフ・スケール3.2。

彼らは死を免れられない存在でありながら、我々地球人から見ればほとんど神のような存在だった。

 2003年5月26日、私はルクセンブルク国内の機密施設の一部地下施設にいた。都市部の監視網を避けるための徹底的な隔離区だ。ここでは、「特務生物監査部門(SBA)」によって4体のダルレ星人が管理されていた。副長ラド、操縦士サフ、言語翻訳・先行接触のハラヌ、そして内気な医者トヒ。


**これからの対話は、

ハラヌによる言語翻訳化されたものである。**


彼らは、発泡スチロールとガラスの混合物のようなものを主食とし、体内に地球人の心臓に似た器官**「パ_パ_ラ_ナ_ト_リ_エ」**を有していた。

 我々が知った彼らの技術は、地球の科学を根底から覆すものばかりだった。彼らは時間・空間・次元を曲げて移動することは可能だが、その力の使用には厳格な制約があった。







第二章:9.11の予知と「鍵」の提示


 ダルレ星人が地球に来たのは、2001年9月10日。彼らの予言的な歴史記録には、翌日に起きる9.11の悲劇が記されていた。彼らが口にした「紀元前2世紀3月10日」を示すト_イ_コ_タ_イ_ヌ_ア_ス_ナ_ビ_ルが、彼らが時間軸を超越する存在であることを証明していた。

 ラドとサフは、地球人が最も欲する知識を提示した。一つは、超重元素**「ヴィスミウム」【アイソトープが不安定な超重元素で、ダルレ星の重力下でのみ安定して採掘可能】を不可欠とする、「原子の衝突による半プラズマ化」**。これにより、彼らは超高速移動や壁のゴースト化を行う。もう一つは、「光子と半減物粒子の合成」による反重力技術だ。

 彼らは、なぜ救わなかったのかという我々の問いに対し、静かに規則の存在を告げた。彼らの最高存在であるキホス様の許しにより定められた**【間次元規則第2条1項】**。それは、「移動して良いが、その未来過去は変更してはならない」というものだった。彼らの技術は、時間・空間・次元を曲げることを可能にしたが、未来の確定した事象を覆すことは、この神聖な規則によって固く禁じられていたのだ。







第三章:次元の境界線と知識の封印


 特務情報統制局は、この技術を即座に封印した。あまりに高度すぎたため、研究はタブーとされた。だが、その裏には、技術的な隔たり以上に、彼らが提示した知識に対する根源的な恐怖があった。

ラドが語った宇宙論の真実。「我々の宇宙は一つのブラックホールの中であり、我々はその外へ自由に出られる」という知識は、我々の宇宙観を一瞬で崩壊させた。

我々は彼らに問うた。「なぜ、あなたの技術をもってすれば、地球の歴史を危険に晒すことなく、特定の危機だけを回避できなかったのか?」

この問いへの答えこそが、最大の伏線回収だった。

「未来変更は、次元を操作することではない。未来変更とは、ブラックホール内の事象の地平面【ブラックホールの境界線であり、そこから物質や光は脱出不可能となる場所】で確定した結果を、無理やり覆すことだ。キホス様は、その領域への干渉を禁じている」

 そして、彼らが技術提供の真の理由を語った。「我々が提供した半プラズマ化の知識は、君たちがブラックホールの外、多元宇宙へ出るための鍵だ。君たちの文明が進化すれば、必ずその鍵に手を伸ばす。しかし、そこで君たちが引き起こす、**カルダシェフ・スケール外の『災厄』**を、キホス様は最も恐れている。我々が技術を封印したのは、君たち自身の破滅を防ぐためだ」

彼らの技術は、人類が神々の領域へ踏み込むための道筋を示していたが、彼らはその道筋こそが、人類と宇宙全体の破滅に繋がると知っていた。

 彼らは救世主ではなく、人類の傲慢を監視し、その危険な進化を封印するために来た、悲しき番人だったのだ。







第四章:未来の不在と脱退者の決意


 この知識の裏切りを胸に、私は局を去った。「情報を流出させない」という超重要書類にサインし、厳格な手続きを経て離れた。しかし、私個人の信念は揺るがない。人類は、この「ブラックホールの中」で、自らの限界を知り、それでも未来を切り開かなければならない。

彼らの滞在は、まもなく終わりを迎える。


2026年3月4日(水)16時35分。


彼らは、再び時間を超え、過去の紀元前2世紀に戻る。彼らが人類に残すのは、技術ではなく、**「君たちはまだ、ブラックホールの中だ」**という、宇宙的な絶望の認識だけだ。

 私は、この秘密が人類の可能性を信じられなかった者の臆病さから隠されたのだと、証明するために、この物語を語り継ぐことを決意した。

 私は空を見上げる。彼らの故郷であるダルレ星、G-47星群がある遥か彼方の空を。そして、彼らがこの空間から消え去るその瞬間を、静かに待ち続けている。

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D’arléの記録 水野祐斗 @tokyo16child3

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