二年目の約束は雪になった
ざき
「私はね、君に会って後悔する気なんてなかったし、今日までしたことはなかったよ」
俺は美香という彼女がいる。
付き合って2年を目前にしていた数日前の夜。
冬らしい冷え込みで街の人たちはマフラーを巻き始めていた頃だ。
「だから別れたいの」
「……どうして?」
頭が真っ白になった
いつものデート、いつもの帰り道、何もかもいつも通りだと思っていた。
集合場所、時間は俺が決めた。
けど誘ってきたのは美香の方からだった。
きっと記念日の話だろう!
心なしか足が普段より軽く感じた。
ニヤニヤしてるのが自分でもわかるぐらいだった
そこにーー
いつもの待ち合わせ場所で美香が、いつにもない顔で待っていた。
「大事な話がある」
「ど、どうしたんだよ……」
「あなたにはたくさんの物を貰った。プレゼントとか思い出とかあなたからの気持ち とか……あげてったらキリがないな……。」
何だよその言い方……終わるみたいじゃないか……
「愛されて嬉しかった。自信のない私を受け入れてくれて、可愛いっていっぱい言ってくれて、あぁほんと幸せだなって、君が思わせてくれたんだよ? 嬉しさいっぱい!」
矛盾してるじゃねえか……
「……じゃあ何でそんな……」
「何でそんな泣いてんだよ…………」
「えぇ……な、泣いてる?」
「ほんとどうしたんだよ!」
「 ち、ちょっとおかしくなったのかも……笑」
「お願いだ。何があったんだ? ……落ち着いてからでいい」
ただ黙って、でも何も考えて無いわけじゃない。美香の手はギュッと何かを、覚悟を決めたような手をしてた。
「……私、がんが見つかったの」
「がん……?」
「うん……それでもう……この先長くないの…………」
「……え?」
言葉の意味の理解が追いつかない
つまり余命を宣告されたってことか?
美香は……死ぬのか……?
「……どういうことだ……?」
「詳しいことは言えない……言いたくない……」
「何でそんなに隠すんだよ……俺たちってそんな関係性だったのかよ!」
「ごめんね……」
「何だよ……それ……」
あぁ、ぐちゃぐちゃだよ。心も顔も何もかも。
「あなたの事は心の底から好き。
この先どんな人がいても、あなたがどんなことをしようと、
多分あなたの事を好きじゃなくなる事はない。だから……せめて私の事を忘れないで欲しいな?」
そうやって笑顔で言ってきて、俺が惹かれた笑顔で。
「なぁ、これでお別れなんて言わないよな?まだやりたい事やってないだろ?
約束しただろ……?2年を迎えたら……遠いとこに旅行に行こうって……」
それを言ったら君は顔を背けた
君はずるいな
自分の言いたいことだけ言って
俺が言ったことには何も言わない
笑顔を振り撒いてたのに
急に涙を流す
「お互い進まなきゃ!」
進めないよ
「今までありがとうね!」
嫌だ
「さようなら……」
「待て!」
気づいたら抱きしめてた
「離れないでくれよ……ずっと愛してるから……この先も……
だからせめて……そばにいさせてくれないか?」
「……」
「強がらなくていい! 無理に笑わなくていい! 弱音を吐いたっていいんだよ。俺はどんな言葉も受け止めるよ。」
「……私……あなたに出会いたくなかった……」
「……それはどういう……?」
「あなたにたくさんの幸せ、たくさんの時間、たくさんの思い出、たくさんの新しい事…いっぱい教えてもらった……けど……こうやってお別れが……早く来るなんて…………」
「俺は……後悔なんて……!」
「最初からこうなるってわかってたなら……出会わなかったと思うな。その方が悲しみも悲しむ人も少なかった……何よりあなたが悲しむ顔を見るのが……何より苦痛なの!」
俺は美香の気持ちを汲み取れてなかった
そこまでわかってあげれなかった
「美香…」
「私はね、君に会って後悔する気なんてなかったし今日までしたことはなかったよ」
「でもね後悔してるのかも。」
「……後悔?」
「こんなに、あなたを好きになっちゃったことを」
俺たちは出会うべきじゃなかったのか?
最初からこんな結末になると知ってても?
俺は、別の誰かを選んだのか?
そんなはず、ないのに
「ごめんね! なんか悪い気にさせちゃって! あなたは何も悪くないよ。ほんとに幸せだったから。ありがと」
「あぁ……」
「もう行くね……」
「……」
「大好きだよ」
「……!」
顔をあげたがそこに君はもういない
当たり前のように見てた楽しそうな顔
何かに一生懸命になってる顔
悲しくて泣きじゃくる顔
そして笑ってる顔
どんな時も俺が一番好きだった美香だった
もう決して会う事はない。
喋ることも、君の声を聞くことも、隣で歩くことも。
ふと、白いものが視界の端から落ちてきた
見上げると、雪が降っていた
「マフラー……渡してあげたかったな……」
もうすぐ2年を迎えるはずだった
包装された袋を持ち俺はただ涙を流しながら立ち尽くすしかなかった。
二年目の約束は雪になった ざき @zacky1771
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