五回目

花衣 龍

第1話

──五回目。

頭の中で呟きながら、沸騰するお湯を見つめる。鍋にはレトルトカレーのパウチ。あと四分だ。

電子レンジが鳴る。あと三分。パックご飯を開ける。あと二分。ご飯を片方に寄せる。あと一分。

火を止める。レトルトカレーをかける。完成。


今日はビーフカレーだ。何も考えず口に運ぶ。思っていたより熱くて舌を火傷しそうになる。二十何年生きてきた結果がこれだ。いい加減


ピンポン


突然鳴り響いた音にスプーンを落としかけた。いくらレトルトカレーを五回連続食べているからと言って、その一回を台無しにされるのはどうかと思う。

近所付き合いはないに等しいが、それでも年に数回は発生するやりとり。またそのひとつかと思い、軽いため息をつきながら玄関へ向かう。


ドアを開けると誰もいない。蛍光灯の明るさと、手すり壁の奥の暗闇。念のため一歩出て廊下を確認する。

後ろ姿。管理人か?

居ないと思われたのかもしれないが、管理人なら声をかけたほうがいいだろう。そう思いもう一歩踏み出


ぐにゃり


聞いたことのない音。音と呼べるのか不明だが、感覚としては聴覚に近い気がした。


管理人の首が変な方向に曲がった。

彼には入居した頃からお世話になっている。

助けに行ったほうがいい。

黒いもの。

口?


黒い口らしきものの中に、四つの頭が見えた。


──五人目。

頭の中で呟きながら、曲がり続ける首を見つめる。手には俺に渡すつもりであっただろうお土産。

歯がカチカチと音を立てる。少し後ずさりをする。後ろ手にドアノブに手をかける。

ドアを開ける。自分の部屋に逃げ込む。成功。


しばらく声を殺して立ち尽くす。

何を見てしまったのだろう。連勤で疲れ果て回るのを放棄した頭では、これ以上は考えたくない。明日になったら良心の呵責に苛まれるのだと思う。


すっかり冷めたレトルトカレーを口に運ぶ。


──六人目。

頭の中に浮かんだことばは、自分のものなのだろうか。急に味がしない。電球が切れたのか、部屋が暗くなっ


ぐにゃり

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五回目 花衣 龍 @hanairyuu

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