第1話 マオウがあらわれた!

 俺の腹に座っている少女の年齢は、予想だが六歳くらい。腰まで伸びた白髪は思わず触ってしまう程に美麗びれいだ。


「おい。勝手に触るな」


「……すみません」


 凄く怒られた。眉を顰め、不満を露わにする。って、そんなことよりも――、


「君は誰?」


 当然の疑問。いきなり現れた謎の少女。頭から左右に立派な角を生やしている。瞳は紫で妖艶な雰囲気を醸し出しており、全てを見透かすようにんでいた。


「その前に貴様」


「な、なんでしょうか……」


わらわのお尻に何やら硬いものが……」


「――!?」


「まさかこれは……」


「きゃー! この変態!」


 俺は男だがセリフは完全に乙女だ。しかし、仕方のないこと。異性(ロリ)に生理現象を指摘されると、恥ずかしいのは当たり前である。


「……き、貴様。妾をいきなり突き飛ばすとは、覚悟あっての行いなのだろうな?」


 壁に突き飛ばされたコスプレ少女はゆっくりと立ち上がり、鋭い眼光を向けた。その光景を見て、すぐさま謝罪が必要だと察する。


「申し訳ない。君のようなを雑に扱うのは大人として良くないな」


「……子供、だと」


「ごめんな。子供は大切に扱えって、天国のお爺ちゃんも言ってたわ」


 まぁお爺ちゃんは俺が生まれる前に亡くなったので、想像でしかないが。


「貴様。もう一度申してみろ。今、妾を何と呼んだ……?」


「え。それは、子供――」


「『死を誘う手デスハンド』」


 コスプレ少女が言葉を発したかと思えば、黒い手が俺の首を絞めつけた。


「妾に子供とは……。侮辱に値するぞ人間」


「これは一体……」


 強い力によって呼吸が制限されている。必死に息を吸うが、圧迫によって喉を通らない。このままでは窒息死してしまう。


「ゆ、許して……」


 助けを求めるが彼女はそれに応じない。もしかしてこのまま死ぬのか。そう考えた刹那――。


「ちょっと浩司! 朝からドタバタと煩いわよ!」


 騒がしい物音に腹を立てた母がノックもせず、部屋の扉を開けた。そして俺。次にコスプレ少女を見て、瞬きをする。


「……浩司。この女の子は誰?」


「……」


 謎の黒い手によって息が詰まる。空気が吸えないので、発声が困難なのだ。


「ちょっと! 何か言いなさいよ!」


 母は彼女を横目に俺を睨む。――えっと、助けて欲しい。


「これは失礼しましたお母様」


 首を触っていた黒い手がいきなり消失した。突然のことに理解が追いつかず、俺はコスプレ少女の様子をうかがう。先程まで彼女から出ていた殺意は鳴りを潜め、猫を被り荒々しい性格を偽っている。


わたくしの名前はレア・シチュード・サイダラ・バンバン・ビンビン・ボンボン・パンパン・グハハハ・ラッキー・スケベ――」


「「(名前が長すぎる……)」」


 母の絶句した様子を見る限り、きっと同じ感想を抱いたのだろう。

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