第2話 — パズルがはまっていく夜

第2話 パズルがはまっていく夜

昨夜の残像が、セリンの頭をかすめた。

ネオンの光に濡れていた顔。

あれはドユンだった──いや、たぶん。


セリンはスマホを確認した。

待ち合わせの時間が、もうすぐだった。


そのとき、長い影が近づいてきた。

「Claire!」

聞き慣れた英語の発音。

セリンは微笑んで振り向いた。


「Evan!」

長いベースケースを背負ったエバンは、昔と変わらないままだった。

しばらく言葉が出ず、ふたりは同時に笑った。


「本当に……来たんだね。」

「うん。やっとだよ。」

エバンは自然に彼女の手首を軽くつかんだ。

「行こ。あいつ、めっちゃ楽しみにしてるから。」


***


カフェの中。

ヒョンシクは窓際でコーヒーカップを転がしていた。

店主が言っていた“音楽をやってるアルバイトくん”を見るためだった。


スピーカーから、シンプルなメロディが流れた。

そのメロディの主は、金髪のシャギーカットの少年。

彼が笑うたび、店内の空気が一段明るくなる。


ヒョンシクはそっと名刺を差し出した。

「音楽、やってるって聞いたんだけど……うちの練習室に来てみない?」


そのとき、ドアが開いた。

「Cael。」

エバンが名前を呼びながら入ってくると、一気に視線が集まった。


入口に立つ少年は、ほとんどプラチナのような金髪に、静かなまなざし。

すでにステージに立っている人のような佇まいだった。


カエルは嬉しそうにセリンへ駆け寄った。

三人は昔からの友達のように自然だった。


しばらくして、エバンがヒョンシクの方へ歩いてきた。

「その……バンドメンバー、探してるって聞いて。」

思ったより自然な韓国語だった。


ヒョンシクは小さく息をのんだ。


***


数日後。

ヒョンシクは、紹介された小さなライブを見に行った。


ステージの上。

赤いギターを持った青年が目に入った。


演奏は拙かった。

ボーカルも揺れて、ベースはテンポを外していた。


だけど──

ギターが入った瞬間、ヒョンシクの手が止まった。

固く、舞台を知っている“手”だった。


短い曲が終わったとき、彼の瞳がわずかに揺れた。


この夜、

パズルはさらに速く、組み上がっていこうとしていた。


◆ 作者コメント ◆

読んでくださり、ありがとうございます。

この物語は火曜日と金曜日の19時に更新します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る