『自転車泥棒』

志乃原七海

第1話:鉄壁の守り、最大の盲点



***


**タイトル:鉄壁の守り、最大の盲点**


新しいクロスバイクを買った日のこと。

ピカピカのフレームを愛でていると、店主が神妙な顔で近づいてきた。


「お客さん、この辺りは**自転車がよく盗まれますからご注意下さい。**そこで、**当店スペシャルのチェーンロックはいかがでしょうか?**」


出されたのは、まるで船の錨(いかり)をつなぐような極太の鎖。


「**うわ!ゴツいです(笑)、自転車より重くないですか?**」


「ははは、でも**これなら大丈夫でしょう。**切断できるもんならやってみろって強度ですから」


店主の自信に押され、その「鉄壁の守り」を購入した。肩に食い込む重さだったが、愛車を守るためだ。


数日後。

駅前の**コイン式駐輪場がいっぱいで**、空き待ちの列ができていた。

約束の時間も迫っているし、まあいいか。俺にはあの「最強ロック」がある。


**チョロっ1、2台分脇へ停めた。「まあ大丈夫だろ」。**


極太チェーンでフレームとガードレールをガッチリ固定。これならプロの泥棒でも手が出せまい。俺は意気揚々と用事を済ませに向かった。


**1時間後。**


戻ってくると、遠目に俺の自転車が見えた。ああ、やっぱり無事だ。あのロックのおかげだな。

……ん?

近づくにつれ、何かがおかしい。シルエットが微妙に違う。


**「ん?、盗まれてる!俺の自転車!」**


いや、フレームはある。タイヤもある。ハンドルもある。

だが、一番大事な「座る場所」が、ポッカリと空気を掴んでいる。


**「サドルだけがない!なんだと!」**


極太のチェーンロックは、誇らしげにフレームをガッチリ守っていた。

しかし、六角レンチ一本で外せるサドルは、あまりにあっけなく持ち去られていたのだ。


突き出した銀色のポールが、俺の油断を嘲笑っているように見える。


結局その日、俺は最強のロックをたすき掛けにし、サドルのない自転車にまたがって、太ももをプルプルさせながら「空気イス」状態で帰路についたのだった。


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