第四章:反撃の狼煙

涼と恵美、そしてSecureGuardのエンジニアたちは、不眠不休で戦い続けた。

涼の提供した検知アルゴリズムは、攻撃者による不自然なアクセス試行を次々と炙り出した。


「検知しました! 米国の防衛関連ネットワークへの接続試行、ブロック成功!」

恵美からの報告が届く。


攻撃者は、盗んだ合鍵を使って正面玄関から堂々と入ろうとしたが、待ち構えていた警備員に阻まれた形だ。

しかし、敵もさるもの。検知を回避しようと、アクセス元を変え、タイミングをずらし、執拗に攻撃を仕掛けてくる。


「いたちごっこだな」

涼は、攻撃パターンの変化に合わせて、リアルタイムで検知ルールを修正し続けた。

彼らが守っているのは、単なる企業のデータではない。国家の安全保障そのものだ。


「涼、こっちのサーバー、負荷が限界よ!」

「トラフィックを分散させろ! 囮のサーバーに誘導して、そこで時間を稼ぐんだ」


サイバー空間での攻防は、目に見えないが故に、より緊迫していた。

数日にわたる激闘の末、ようやく攻撃の波が引いていった。

SecureGuard社は、全世界の顧客に対して、4000万個以上のトークンを無償で交換することを発表した。

それは、セキュリティ史上類を見ない、巨額の損失と、信頼回復への苦難の道のりの始まりだった。


「終わった……のかしら」

恵美が、疲れ切った声で言った。


「攻撃の第一波は防いだが、戦いはこれからだ」

涼は静かに答えた。

「だが、最悪の事態――防衛機密の大量流出による世界のパワーバランスの崩壊は、なんとか免れた」


もし、恵美が最初の違和感を見逃していたら。もし、涼が即座にゼロデイ脆弱性を特定していなければ。

被害はこんなものでは済まなかっただろう。


「涼、私……セキュリティの仕事、続けていいのかな」

恵美が弱音を吐いた。自信を喪失している。


「恵美。君が気付いたから、世界は救われたんだ」

涼は優しく、しかし力強く言った。

「完璧なセキュリティなんて存在しない。大事なのは、破られた後にどう動くかだ。君は、逃げずに戦った。胸を張れ」


画面の向こうで、恵美が涙を拭うのが見えた。

「……うん。ありがとう、涼」

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