最強の盾が砕かれた日 - 認証の秘密が盗まれた瞬間

SFCA

プロローグ:城門の内側

2011年3月、マサチューセッツ州ベッドフォード。


セキュリティ業界の巨人、「SecureGuard」の本社サーバーールームは、いつものように静寂に包まれていた。ここには、世界中の企業や政府機関が信頼を寄せる「最強の盾」――二要素認証トークン「SecurID」の心臓部が眠っている。


だが、その静寂は欺瞞だった。


数日前、人事部に届いた1通のメール。件名は「2011 Recruitment Plan.xls(2011年採用計画)」。

繁忙期を迎えていた担当者は、疑いもせずにそのExcelファイルを開いた。画面には何も表示されず、ただ空白のシートが広がっただけだった。担当者は首をかしげ、ファイルを閉じた。


「ファイルが壊れているのかな?」


その程度の認識だった。しかし、その裏側では、すでに不可逆的な侵入が始まっていた。

Excelに埋め込まれたAdobe Flash Playerの未知の脆弱性(ゼロデイ)が炸裂し、メモリ保護を突破。バックドア「Poison Ivy」が静かにインストールされたのだ。


それは、まるでトロイの木馬のように、城門の内側から「最強の盾」を突き崩すための布石だった。

世界中の軍事機密や金融資産を守る最後の砦が、たった1通のメールによって陥落しようとしていた。

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