第三章:デジタルの止血

涼の指がキーボードの上を舞う。

それは、暴走する列車を止めるために、線路の分岐を切り替えるような作業だった。

ミスをすれば、正規の通信まで遮断してしまう。


「プログラム、起動!」

涼がエンターキーを叩く。

モニター上のグラフが激しく波打つ。

涼のプログラムが、ワームの通信を次々と撃ち落としていく。


「……感染ペース、落ちてきた!」

洋子が叫ぶ。

「今だ! この隙にパッチを配布するんだ!」

回線の負荷が下がった一瞬の隙を突いて、CyberSpaceは管理下の全サーバーに修正パッチを強制配信した。

パッチが当たれば、もうバッファは溢れない。ワームの攻撃は無効化される。


1時間後。

赤く染まっていた監視モニターのアイコンが、一つ、また一つと緑に戻り始めた。

「……勝ったの?」

洋子がへたり込むように椅子に座った。

「ああ。なんとかな。だが、世界中のサーバーが全部治ったわけじゃない。まだしばらくは余震が続くだろう」

涼も額の汗を拭った。

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