第二章:見えない侵入者

事態は悪化の一途をたどっていた。

Code Redに感染したサーバーたちは、ウェブサイトの改ざんだけでなく、特定のIPアドレス――ホワイトハウス――へのDDoS攻撃を開始するようにプログラムされていた。

インターネットというインフラそのものが、テロの道具に使われようとしていた。


「洋子、君の会社のルーターで、特定の文字列を含むパケットを破棄できないか?」

涼が提案する。

「やってみたわ。でも、通信量が多すぎてルーターのCPUが悲鳴を上げてる。これ以上フィルタリングを強めると、全サービスが停止するわ」


「くそっ……。なら、メモリ上で迎撃するしかない」

涼は自分のラップトップを開いた。

「メモリ上で?」

「ワームが送り込んでくるシェルコードには特徴がある。『NOPスレッド(No Operation Sled)』だ」

攻撃を成功させる確率を上げるため、攻撃コードの前には「何もしない命令(NOP)」が大量に敷き詰められている。

「0x90(NOPの機械語)」の連続。それがワームの足音だ。


「僕は、ネットワーク内を流れるパケットを監視して、この『0x90』の塊を見つけたら、即座に切断信号(RSTパケット)を送るプログラムを書く。ルーターの負荷を下げつつ、感染の連鎖を断ち切る」

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