第4話 真実
二人の意識が戻ってきたのは、規定時刻ぎりぎりだった。
「……大丈夫ですか」
医療班が駆け寄る。
けれど二人は、すぐに僕を見た。
……この跳躍に、満足しきれなかったのだろうか。
今までそんな目をして戻ってきた利用者なんて見た事がない。
「……お、お帰り」
職務上、それ以上の反応はできなかった。
検査室へ運ばれ、一通りの処置が終わったあと、二人は面談室に戻された。
書類をめくる僕に国澤くんが話かける。
「
僕は顔を上げた。
国澤くんは淡々と話をつづけた。
二人が前に一度、違法な跳躍をしていたこと。
その結果“
その際、未来を一部変えてしまったため捜査の手が確実に伸びていて、捕まるのは時間の問題だということ。
「もう体が持たないって、わかってたから」
原見さんの声は穏やかだった。
「だから、次は二人で一緒に飛ぶ方法じゃないと無理だったの」
そこに迷いはなかったと言う。
「でも、後悔は?」
僕が尋ねると、原見さんがすぐ首を振った。
「ない」
国澤くんも同じように言った。
「実は、一回目の跳躍で結構長く過去にとどまってたんだ」
国澤くんの目が、どこか懐かしむように細められた。
「朝比奈くんが覚えてる“俺たちが
少し間を置いて、続けた。
「俺ら、最初の跳躍では“俊健じゃなくて、自分の体”に意識を入れたんだ。二人とも、自分自身として過去に戻って……なんとか俊健を守ろうとした。でも、失敗してしまったんだ」
——あの頃、俊健くんを何より大切に扱っていた二人。
当時そばにいたのは、いま目の前にいる“未来の彼ら”だったのか。
初回面談のとき、曖昧な笑みを返された理由が、ようやく
「すでに一回目で脳がボロボロだったし、だから二回目は正規の方法で……最後のチャンスにしようって決めたんだ」
僕は喉の奥が熱くなるのを感じた。
言葉がうまく出ない。
「未来を変えたのなら……長期の
僕が絞り出すと、国澤くんは笑った。
「知ってる」
「私たちね、もう長くは生きられないみたいなの」
国澤くんが続ける。
「一回目の跳躍でね、脳がかなりやられちゃってさ」
その言葉の軽さが、僕の心を余計に締めつける。
内線が鳴り、警察局が向かっているから二人を部屋から出すな、と言われる。
時間がないと理解した僕は、ずっと胸に残っていた問いを投げた。
「……なんで、僕を担当者に指名したんだよ」
国澤くんが少し驚いたように目を丸くして、それから笑った。
「過去で俊健の次に医療事故に遭ったのが君だったからだよ」
言葉が追いつかず、混乱して思わず口元が
「……僕?」
「中三の卒業間際に、君を助けたのは俺たちだ」
国澤くんは、さっきまで握っていた小さな紙片を差し出した。
そこには、彼らが暗記したと言う六人の名が走り書きで並んでいる。
原見さんが言う。
「朝比奈くんが生きていてくれたから、二回目の跳躍ができたの。だから、このメモをどうするかはお任せしたいの」
国澤くんが僕の目をまっすぐ見た。
「……そういうことなんだ。受けとってくれ」
その言い方が、ひどく中学生の頃の国澤くんと重なった。
ドアノブが動く音がした瞬間、僕はその紙をひったくるように受け取った。
警察局の職員が入ってくる。
「
二人は抵抗しなかった。
立ち上がり、互いの手を取り、僕の方を振り返る。
原見さんが言った。
「私たち、間違いなくハッピーエンドだよ」
国澤くんも笑う。
「俊健にもやっと会える。そう思うと、ようやく気持ちが楽になるよ。……俺も節子も、あの子を愛していたんだ」
僕は何も返せず、連れて行かれる二人を見送っていた。
扉が閉まる音が短く響く。
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