明日の夕方、6時駅前

遠山ラムネ

明日の夕方、6時駅前

「俺ぇ、告ろっかなぁ、て、思ってんだよねぇ」


などと唐突に言い出したこの人のことを、私はたぶん、うっすら好きだった。

本気、ではない。うっすら。

強がりなんかじゃない、だってそう言われて初めて、ちょっと気付いたんだから。


放課後、学校から駅までの道。

別に今だって、一緒に帰ってるとかじゃない。

みんなが使うこの道で、たまたま同じ時間で、だからなんとなく雑談してただけ。


クラスが同じだし、理科の実験班もそういえば一緒だから、機会があれば話す、そんな感じ。


「どう思います?」

「ええ?なにが?」

「だから、告ろっかなって」

「ああ」


そんなこと言われても、相手が誰だかも分からないし。

誰に?て聞けばいいの?

だけど別に聞きたいわけでもないんだし。


ざりざり、靴音が響く。

どちらも履いてる、スニーカーがアスファルトを踏み締める音。



「まあー、言いたければ、言えばいいんじゃない?じゃないとなにも、始まらないし」

「だよなぁぁ」

「うん。どっちかが告って、いいよじゃあ付き合おっかって、そういうね」

「だよなー」


どちらかが告って、だから始まる。

まぁ、告らなくてもうっすら終わることもある。こんなふうに。


いや、まぁ、でも、ほら、うっすらだし

そんな傷つかない………たぶん


「じゃあ、そうしよっかなぁ」

「うん、そうしたら」

「でも振られたくないじゃん?」

「そりゃそうだけど」


まぁ、今のままでいいなら、現状維持の道はある。

一番簡単だし、楽、だろうけど。


「付き合いたいなら、告ったら」

「だよなぁ」

「うん」

「わかった、そうする」


いつのまにか、駅の目の前についていた。

彼が立ち止まって、何やら背筋を伸ばして向き直る。

ちょっと笑っていて、それを私は、ぼんやり見上げた。


「というわけで、明日、夕方6時にここ。待ってる」

「は……え?!」


え??


聞き返したのに、彼はまぁ驚くほどのスピードですでに改札を抜けていて、追いかける暇なんてなかった。


ええ?!


明日夕方6時に、ここ??



カンカンカンカン……


鳴り始める踏切。

レールと車輪が軋む音。

夕方の風。

遅れてじんわり、ほっぺたが熱い。

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明日の夕方、6時駅前 遠山ラムネ @ramune_toyama

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