10
雨谷と鈴木は阿部のスマホの画面をじっと見つめていた。確かにXのポストのようだ。
『#回送電車
変な電車に乗ってしまいました。ここから出るのを手伝って欲しいです。』
つい先程投稿がされたものらしい。本当にこんなことがあるのかと2人は驚愕をしていた。
「もう既に1人が亡くなって。それなら早く目白のことを教えた方がいいんじゃ。」
見つめている場合じゃないと気づいて鈴木が食い入るように言った。だが、阿部はスマホに何もしない。自分たちに見せているだけだ。
阿部がスマホの画面をスライドさせ、追加のポストを見せてきた。
「今いる駅は…高田馬場。遅かったのか。」
雨谷は腰が抜けたように椅子に寄りかかった。先程までスマホに釘付けだったくせに。
「そうではないんだ。遅いわけじゃない。」
「それはどういうことですか?」
「答えは目白じゃないと思うんだ。今までのヒントを頼りに、僕は調べ物や考えを張り巡らせてきたんだ。その結果、目白で降りることは正解ではないと思ったのさ。」
雨谷の腰が再び浮き上がった。単純なやつだと鈴木は思ったが、実際のところ、自分も同じような気持ちになっていたのだ。
「なら、その場所を早く教えた方がいいんじゃ…」
「その前に、この謎を解こう。」
スマホを見ると、そこには情報が書かれている。1~3号車両までに起こっていることが丁寧に書いてある。もちろん、阿部が見せてきた広告の話も出ていた。目新しいものと言えば3号車両での出来事の方だろう。椅子の下に白骨遺体があり、それが動き出し、目の前で崩れた?ホラー映画のワンシーン次ゃあるまいし、本当に現実に起こっていることなのかと疑いたくなる。しかし、今は信じるしかないだろう。
「確かに君たちの言う通り、今までの事柄は『白』を暗示させるものになっている。それは当たりだ。だが、1つ見落としていることがある。」
「見落としていること?」
「その『白』という色が死に直結した色になっているということだ。」
聞き返す余裕が2人ともなく、聞き入るしか無くなっていた。なぜなら理解ができないから。
「最初に出会う、震えながら奇怪な言葉を発していた人がいるでしょう?この人の言葉の中に『頭が真っ白だ』というものがあった。」
「だから、それは白を意味しているんじゃ。」
鈴木が質問をした時、雨谷に肘で脇腹を押された。そんな簡単なことを聞くな、そう言われているようだ。自分だってこんな質問したくない、けれども気づいた時には口から言葉が出てきてしまっている。それを止めようにも難しいものだった。
「白を意味している。これは合っているんだ。だが、その後に彼がどうなったか、話したでしょう?」
ドアの外に出て消えてしまった。その後どうなったのかはよく分からない。生き残った可能性もあるし、死んでしまった可能性だってあるわけだ。
「この部分で、この人がどうなったのかはまだ分からない。だから、この部分は始まりにすぎないということ。次に合う人がキモとなる。」
確か、次に会うのは自分たちと同じような感じで電車に迷い込んでしまった女性の方だったな。これがどう死に繋がるのか分からなかった。
「次に会う人がなんて言っていたか覚えているかな?」
「そういえば、あんな状況でよく『白いオムライス』を食べに来たなんて呑気なこと言えましたよね。…あっ!そうか!」
自分で言った言葉なのに鈴木は驚愕してしまった。
そう、この後、女性は電車を降りて駅のホームで命を落としてしまうんだ。つまり白=死という構図が出来上がってくる。
「説明は不要のようだね。そして、インタビューした人が次に会ったのが駅員さんだ。」
「彼にも何かそれらしいヒントがあったとでも?」
よく見ると雨谷は貧乏ゆすりをしていた。人の命がかかっているんだ、無理もない。阿部はなぜ、すぐに答えを教えずにポストもしないのかと疑問だった。その状況に少し苛立ちを覚えるのは少し共感できる。
「駅員の言葉にまた注目して欲しいんです。『降りるのか降りないのかハッキリしてください。』と言っていたそうですね。物事をハッキリ決める時に使う言葉があるでしょ?」
『白黒ハッキリさせよう。』
「でも、それだと黒も入ってる。」
「そうです。そこが問題なんですよ。この電車には2つの選択肢が与えられていたんです。白と黒。そして恐らくは白がハズレ。これから広告の方の説明をしましょうか。」
雨谷がいきなり立ち上がった。
「もう十分です、早くその答えを教えてください。教えなくてもいいからそのポストに返信をしてください。人の命がもう1つ失われているんですよ。」
こんなに迫力のある雨谷を見たのは、久しぶりだ。ここまで熱くなっているとは予想外だった。しかし阿部は冷静さを保っている。
「そうしたいのならそうする。けれども、あそこは…」
言葉を詰まらせた阿部がどうも気になったが、阿部がスマホで書き込みを始めたので間に入ることはしなかった。
「それじゃあ、本題の方に戻ろうか。書き込みは終わったが、まぁ無駄だとは思うよ。」
「無駄?どういうことだよ?」
警察官としての礼儀を雨谷は既に忘れてしまっているらしい。イライラが募りに募って爆発寸前と言ったところだ。
「いいから、聞いてくれ。大丈夫、最後には全部分かるよ。」
「座って。」
立ち上がった雨谷をなだめるように鈴木が座らせた。こちらを見た時の雨谷の目は「すまない、取り乱した。」とでも言うような目をしている。
「1つ目の広告の意味することは『出口』。あの電車には出口があるということ。2つ目は『白』を示しているが、1つ見落としていることがあったんだよ。」
「見落としていること?」
「宗教の広告だっただろう?どこのものかと言うと、日本。日本で白は装束などが死の象徴になっている。調べて分かったことです。そして、忘れていたことですが、上野の駅の時だけ、パンダのアナウンスが流れたそうです。白と黒。白は死を意味していると、その答えに辿り着いたんです。」
それが本当なら答えの駅はその反対の駅ということになるのだろうか?
「目黒…」
鈴木がボソッと言った。
「その通り、恐らくは目黒が正解の駅なんですよ。そこから降りれば現実の世界に戻ることができるかもしれません。ですが…」
阿部の表情が曇り、机の下の方を見た。何か言いたげだが、言葉に詰まっているかのような感じだ。
「何かあるんですか?」
「先程も言ったでしょう。無駄だって。あの場所から出られるのは『殺人鬼』だけなんですから。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます