第14話 兄の冷徹な訪問と、取り戻される財宝


レオンハルト公爵家による静かなる経済制裁は、王宮内に瞬く間に波紋を広げた。特に王妃イゾルデは、自らの権力の源であった貿易ルートが凍結され始めたことで、激しいパニックに陥っていた。


「陛下! これはレオンハルト公爵の悪意に違いありません! なぜ婚約破棄を静かに受け入れたはずの彼らが、このような卑劣な手段を……!」


王妃イゾルデは、国王アルベルトに泣きついていたが、国王の反応は冷たかった。


「公爵家は、王室の品格と娘の尊厳を踏みにじられたのだ。彼らに報復の権利がないと、誰が言える? この事態を招いたのは、貴女の浅はかな助言と、ルドヴィクの愚行によるものだ!」


国王は、王妃とルドヴィクを厳しく叱責したが、経済的な権力の大部分をレオンハルト家に握られている現状では、有効な対抗策を打てずにいた。王室の権威が、公爵家の経済力によって静かに揺さぶられ始めていた。


そのような緊張感が高まる中、シルヴィアの兄であるガブリエルが、王宮を訪れた。


彼の目的は、婚約破棄の正式文書の提出と、結納品および婚約記念品の回収であった。


ガブリエルは、王太子ルドヴィクと自称聖女リーゼが揃っている王太子の私室に、一切の私的な感情を交えずに入室した。


「ルドヴィク殿下。本日、レオンハルト公爵家より、婚約破棄に関する正式文書を提出いたします。また、これに伴い、公爵家から王室へ送られた結納品、およびシルヴィアから殿下へ贈られた記念品のリストを携行いたしました。速やかに返却をお願いいたします」


ガブリエルは、法律に基づいた完璧な手続きを進めた。彼の態度は冷徹で、もはやルドヴィクを未来の国王として扱う敬意は微塵もなかった。


ルドヴィクは、兄の高圧的で有無を言わせない態度に、激しい屈辱を感じた。


「ガブリエル! 貴様、婚約破棄を承知したのではないのか! なぜ今更、このような金の亡者のような振る舞いをする!」


「殿下」ガブリエルは静かに、そして鋭く切り返した。


「これは、レオンハルト公爵家と王室間の契約に基づく、正当な法的手続きです。品物には、王国の安全保障に関わる機密性の高い情報を含むものもございます。リストに記載された品物、一点たりとも不足のないよう、確認させていただきます」


そのリストの中には、ルドヴィクがリーゼに与えていた公爵家由来の宝石や美術品」も含まれていた。特に、リーゼが指にはめていた、シルヴィアの母の形見であった白金と銀の細工が施された指輪も、リストの筆頭に記されていた。


リーゼは、顔面を蒼白にしながら、その指輪を必死で隠そうとした。


「ガブリエル様!これは、殿下からわたくしへ、愛の証として贈られたものですわ!」


「リーゼ嬢」ガブリエルは、初めてリーゼに視線を向けた。その瞳には、冷酷な軽蔑が宿っていた。


「リストに記載された品物、一点たりとも不足のないよう、確認させていただきます」


そのリストの中には、ルドヴィクがリーゼに与えていた「公爵家由来の宝石や美術品」も含まれていた。特に、リーゼが指にはめていた、シルヴィアの母が大切にしていた愛用品である白金と銀の細工が施された指輪も、リストの筆頭に記されていた。


ルドヴィクは、「金の亡者」という言葉で済まされない、公爵家の威信と法による静かなる制裁に、完全に言葉を失った。


ガブリエルは、すべての品物がリスト通りに回収されるのを確認すると、ルドヴィクに一瞥もくれず、静かに王宮を後にした。彼の背後には、崩壊の始まった王室の権威と、呆然と立ち尽くす愚かな王太子だけが残されていた。

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