ネフスジエフの神騎
瓊紗
第1話 神騎の目覚め
――――物心がついた時から何度も見る夢がある。
【ネミズィアヒアイウゼドウ】
また、その言葉。
目の前には大きな……俺?黒髪に黒い瞳。でも年齢は16の俺よりも上だ。多分……20代?
【イクネフシュネミニエゴウ】
何て言ってるんだ?
アンタは誰なんだ?名前も顔も知らない俺の……兄弟とか、親とか。でも彼はまるで巨人だ。玉座のような椅子に腰掛けているが俺の2倍……3メートル超。
それなのに……不思議と恐怖がない。
【ネミズィアヒアイウゼドウ】
分からない。知っているはずなのに。
【ネミズィアヒアイウゼドウ】
「誰なんだ……?」
【ネフスジエフ】
え……?
――――そして、目が覚めた。
「今のは……名前?」
……初めて知った。
「エグニル」
俺を呼ぶ声にハッとする。
「ルーン……?」
この弟は、また兄のベッドに潜り込んだのか。まあいいのだけど。
アッシュブラウンの髪にグレーの瞳。屈託のない笑みは相変わらずだな。
「ウオヒエン」
相変わらず不思議な言語だが、『エグ』は『兄』なのだろうな。
「ああ、おはよう。着替えたら朝食にしよう」
「アイアフ、エグニル」
サッと着替えると、朝食のパン、ベーコンエッグをさくっと用意する。
「なあ、ルーン」
「エムネシュ?」
「ネフスジエフって……知ってるか?」
「アイアフ!ネフスジエフ!」
「え……」
今のは『肯定』だよな?
「ネフスジエフって誰なんだ?」
「……」
ルーンはうーんと考えてる。
「俺の本当の親?実の兄弟?」
だけど彼は……巨人なのだ。俺たちは巨人たちからは小人と呼ばれる【人間】なのに。リュウ兄にも相談するべきか……。
「……!」
閃いたのか?ルーンがうんうんと頷く。?
「アマブ!」
「……んー……アマブ?分からない」
今まで聞いたことのない言葉だ。
「ネフスジエフ、アマブ。ネフスジアブ、イデグ」
「いや待て、単語を増やすな!ネフスジアブって方は何だ?いや……誰だ?」
出来上がったベーコンエッグとパンを食卓に並べ、飲み物は……ミルクティーでいいか。
「ネフスジアブ……ネフスジアブ……ネフスジェグズネルジュ」
「いやいや難しいって」
しかしながら解読のために書いておく。よし、メモメモ。
こう言う探究心はリュウ兄譲りかもな。本人は今はもう忙しすぎて趣味の遺跡探索やら言語解読やらは出来ないが。
「ネフスジエフ、ネフスジェグケムザズ」
今のはネフスジエフの他の説明か?
「ネフスジェグケムザズはアマブ……か」
イコールかどうかは分からんが。しかし……。
「『ネフス』……って何だろうな」
必ずと言っていいほどに登場するフレーズ。そこに真相があるような気がしてならない。
「でもま、学校には行かないと。リュウ兄に怒られる」
「アイアフ」
朝食を食べ終われば、早速出発だ。とは言えここは寮だから学校までは直結。
生徒も少ない。子どもは俺たち高校生だけだ。中学生は去年までいたものの、それだって俺たちだけだ。
子どもも少なければ若い大人も少ない。世界はまさに人類の存亡をかけた瀬戸際であり、ここが……最前線でもあるから。
教室に顔を見せれば、クラスメイトは他に4人しかいない。上級学年はおらず、去年卒業した先輩たちは全員防衛戦のために基地にいることだろう。むしろそのための訓練生の学びの場としてこの学校はある。
ここは常に何もかもが足りないから。
「おはよう」
「ウオヒエン」
「おはよう、リン。ルーン」
親友のカルマ・クマールが俺とルーンに手を振ってくれる。赤髪に金の瞳、褐色の肌のリーダー格。
「リン・ヤガミ……ろくに
ふいと顔を背けるのはゼキ・デニズ。青髪にアイスブルーの瞳、肌は浅黒い。その辛辣さは……相変わらずだな。
「こらゼキ。そう言う言い方はないだろ!俺たちだって最初から神騎を扱える訳じゃない!」
けれどカルマがいてくれるから何とかなっている。ゼキはカルマに怒られ完全にそっぽを向いてしまった。
「ナヨアツネフズ」
「こら、ルーン」
多分今の言葉はゼキに向けた威嚇だな。
「俺が神騎を扱えないのは事実だよ」
服越しに胸元に埋め込まれた資格をなぞる。
「……ネフスジエフ」
どうして今、その言葉が出てきたんだ……?俺が神騎の適合者なのに扱えないのはそれが関係しているのか?
「ちょっと何?空気悪い。ゼキったらまた何か言ったの?」
続いて女子2人が教室に入ってくる。今口を開いたのはルチア・カブラギ。
金髪ツインテールにローズピンクのツリ目の美少女だ。
「そう言うの、よくないよ」
そう告げたのは深緑の髪に瞳のイェリン・ウォン。
イェリンはさきの戦闘で負傷したため腕にはまだギプスがある。
「ふん」
ゼキは相変わらずなんだから。けれどどうしてか嫌われているわけではない気がしてしまう。
「ほーら、席につく!時間は有限よ!」
教鞭に立つのは俺たちの担任のエレナ・シモン先生だ。
濃い茶髪にヘーゼルブラウンの瞳の美人である。
エレナ先生の言うとおり、時間は有限。いつ敵が攻めてくるか分からないから。
みな席につき、授業が始まる。とは言え学ぶのは基地での戦闘に関わること。基地のサイバー知識やら戦闘に必要な計算やら。ま……人間は生き延びなければならないのだから仕方がない。
しかし次の瞬間、校内にけたたましいサイレンの音が響く。
「戦闘態勢に移行!ルチア、カルマ、ゼキは出動準備!リン、あなたはルーンと共にイェリンと避難を」
「……分かりましたっ」
俺にできることなんて怪我人のイェリンと逃げることだけだ。先ほど突っかかってきたゼキも今は何も言わずに飛び出していった。
戦闘態勢に移る基地。俺たち非戦闘員はシェルターに待避することになる。それでも必要最低限の人員しかいない。
それでもできることをと非戦闘員たちの誘導を行うが。
ドオオォンッと爆音が響く。
「ルチア!?」
ルチアの金色の神騎……アテナがシェルターのすぐ近くに落下したのだ。
「リン、あれを」
イェリンが指し示した上空。巨大な敵を塞き止めていたはずのカルマの赤い神騎とゼキの青い神騎が応戦している。球体のようなコックピットを核として展開する3メートルはある巨大な鎧。鎧を纏い神騎と応戦しているのは……ヒト型の鎧。
「いつものケモノ型じゃない。ヒト型の巨人は本当にいたんだ」
巨人はただの伝承の中の神話生物じゃない!
「ネルジュ」
「ルーン?ネルジュってまさか……巨人のことか?」
「アイアフ」
「どうしよう……神騎と巨人が戦ったらどうなるんだ……。それにルチアも!」
「今できることは避難することだよ。私は怪我で弓を射れないからアルテミスを起動できない。あとはカルマとゼキを信じるしかない」
「けど、ルチアの救出は」
「この状況じゃ……誰も余裕がない。巨人を退けないと」
「手遅れになったらどうするんだ!俺は行く!イェリンは怪我人だからシェルターにいて!」
「バカ!神騎を起動できないのに危険だ!」
イェリンの手が伸びるのをルーンが防いだ。
「ネフスジエフ、ウオリアセガツフオフサマブ」
ルーンがネフスジエフに何かを呼び掛けた気がした。
胸元の印……
「ネフスジエフ!」
【ネミズィアヘドウオフソアヨウ】
ネフスジエフがルーンの言葉に返した気がする。ふたりが告げたのは多分同じこと。
「アイアフ」
【イフシュ】
胸元の核が輝けば不思議な球体の膜で俺を呑み込み、ルチアのアテナの元へと運ぶ。
ころんと転げるように着地すれば、アテナが展開を解き、ルチアがぐったりと横たわる。その胸元には俺と同じ核が埋まっている。
「アテナが守ってくれていたのか」
ルチアの額からは血が滴る。躊躇なくシャツを破り彼女の額に巻き止血をはかる。
「うう……り、ん?」
「ルチア、しゃべるな!まずは止血を……」
その時また大きな音と共に震動が襲い掛かる。
「嘘だろ……?」
カルマとゼキの神騎が地上に激突し、鎧を纏った巨人が手ぶらで宙に浮いている。
そして俺たちを視界に捉えた……気がした。
「――――――」
悲鳴のような、聞き取れない甲高い声。兜の下から覗く髪の長さからも女性体か。狙いを定めたように俺たちに迫る。
「しまった、アテナ!」
「そんな状態じゃ無理だ!」
「だけど……アンタを死なせるわけにはいかないでしょ……、あ、ぐ」
ルチアがよろめく。どうしよう……どうすれば。いや……手ならひとつだけある。
「ネフスジエフ。頼む。起動してくれ!」
ルチアの元まで運んでくれたネフスジエフ。お前が起動すればルチアを助けられる!
【ネミズィアヘドウオフソアヨウ】
「ネフスジエフ?」
【ネミズィアヒアイウゼドウ】
【ネミズィアヘドウオフソアヨウ】
「ネミズィアヒ……アイウゼ……ドウ……ネミズィアヘ……ドウ……オフソ……アヨ、ウ……」
口から溢れるのは初めて発音する響き。しかし分かる。これは……ルチアを守るための言葉だ。
「ネフスジエフ!起動!」
その瞬間、核が俺たちを呑み込む。そして黒き鎧を展開する。やることは何となく分かるよ、ネフスジエフ。両手を前に差し出し、粒子の膜を展開する。
巨人が襲い掛かるがその衝撃をもやすやすと受け止める。
「ルチアにも……みんなにも……手は出させない!」
その瞬間粒子が光を帯び巨人を呑み込み、焼き、そして吹き飛ばしていく。
巨人の断末魔の轟音が残響となった時には、基地には既に静寂が降りていた。
次の更新予定
ネフスジエフの神騎 瓊紗 @nisha_nyan_
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