推し活殺人事件⑬
◆第13章 「嘘が真実になる場所」
空が生放送を飛んだ翌日。
“体調不良”という事務所の言い訳は、
ファン(彼女ら)にあっさり見破られた。
そして1人の投稿が、
地獄の起点になった。
《空くん、昨日メンバーと揉めてたって聞いた》
根拠ゼロ。
ただの噂。
しかし拡散速度は光のように速かった。
《え、それ本当?》
《見たって人多くない?》
《なんか昨日、航くんの顔こわかったよね?》
“誰も確認しないまま”
不安が事実へと変わり始める。
その夜。
SNSはもはや現実ではなかった。
《天城空、メンバーからのパワハラ被害説》
《理一の冷たい態度、あれ絶対なんかある》
《悠真くん涙目だった→喧嘩あった?》
《奏多くんが空くん避けてたってガチ?》
全部妄想。
全部推測。
でも、
“みんなが言ってる”というだけで真実になる。
怖いほどの現実味。
ファン(彼女ら)は恐ろしい速度で動く。
・仲良さそうな過去動画は無視
・数秒の無表情だけを切り取る
・些細な目線のズレを誇張する
《ほら、見て!空くんだけ笑ってない瞬間!》
《航くんが空くんの肩に触れない→不仲確定》
《理一のこの表情、絶対空くんに怒ってる》
たった“0.3秒”の映像が
“暴力の証拠”として扱われる。
ファンの不安は、
事実を探すのではなく
“自分を安心させるためのストーリー”に変わっていた。
《事務所が隠してる》
《空くんの精神状態やばかったんじゃ?》
《働かせすぎ。殺す気?》
《空くんを守れないなら解散しろ》
中には“内部関係者”を名乗るアカウントも現れた。
《私、EVEの関係者です。
天城空くんは最近限界でした。
スタッフも異変に気づいていましたが放置されました。》
当然、嘘。
だが、
“本物っぽい文体”だけで信じる者が大量に現れた。
味方同士だったはずのファンが、
互いを攻撃し始める。
《あなたは空くんの気持ちをわかってない》
《心配しすぎとか言う人、ファンやめろ》
《空くんを守るのは私たちでしょ》
《過剰心配は逆に空くんを追い詰めるんだよ!》
《誰のせいで空くんが飛んだと思ってんの!?》
“空くんのため”と叫ぶ声が、
空を苦しめる音にしかなっていないことに
誰も気づかない。
《空くん、自殺未遂した説出てる》
根拠?
ない。
でも、
人は不安になると嘘を信じたくなる。
《ありえる…最近元気なかったし》
《メンバーのせい?》
《事務所が隠してるに決まってる》
《EVE終わった》
デマはあっという間に
数万リツイートされた。
まるで“呪い”そのものだ。
《空くん、今どこ?》
《返事して》
《ほんとに死んだらどうしよう…》
この言葉がトレンド入りした時点で、
地獄は完成していた。
ファンは泣き叫び、
怒り、
暴れ、
憶測を事実のように語り、
空の存在を食い荒らし続けた。
空の心とはまったく関係のない場所で、
“天城 空の死”が勝手に作られていく。
空がいない。
何も言わない。
どこにも現れない。
その沈黙は、
悪意と妄想の燃料になっていった。
ファンの叫びはついに狂気へ。
《空くんを返して!!!!》
《何があったの!?》
《お願いだから生きてて!!》
《メンバーが怪しい》
《事務所が怪しい》
《SNSで皆で抗議しよう!!》
そしてついには、
《空くん死んでたらどうするの!?責任取れよ!!》
という投稿が溢れ出す。
その言葉は、
まるで“死を望む呪文”のように
空のSNSにこびりついていった。
そして——空はついに、スマホの電源を入れる
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