トラブルマグネットな悪役令嬢
如月いさみ
第1話 異世界転生
どれほどの理由があったとしても。
「俺はお前の犯罪を認めることは出来ない!」
耳元でビュービューと風が擦り切れる音が激しく鳴り響く。
制御を失った列車は終わりに向かって走っている。
俺は列車の中で向かい合うように立っている稀代の凶悪犯罪者である三嶋慎也を睨んだ。この列車には二人だけしか乗っていない。あの世行きの列車だ。
こいつだけは許せなかった。
鳥飼翔という一個人としても。鳥飼翔という一警察官としても。
こいつを許すことだけは出来なかった。
「これがお前と俺の棺桶だ」
そう言った俺に三嶋慎也は綺麗に笑みを浮かべた。
東京都庁の占拠事件からそれに関連する人間を抹殺し、被害者の数は両手では足りない。
その中に……俺の相棒である松田貢もいた。
二人で胸を張って纏った警察官の制服が鮮血に濡れて動かなくなった相棒の身体を抱きしめた時に何かが壊れた気がした。
それから追いかけて。追いかけて。
警視庁刑事部捜査一課と共に罠を張ったがこの列車に逃げ込み死を選んだから、俺は呼び止める声も振り払って共に飛び込んだ。
死の果てまでも追いかけてやると誓ったのだ。
逮捕せずに黄泉路へと逃がしてやるつもりなど毛頭なかった。
俺は手錠を出すと笑みを浮かべた。
「あの世へ行く前に手錠をしてやるぜ」
俺は何処か狂ってしまったんだろう。死が目の前なのに恍惚とした達成感を覚えている。
三嶋慎也はそんな俺を見て満足げに唇を開いた。
「鳥飼探偵、貴方だけだ。俺をここまで追い詰めたのは……その実力は認めよう」
そう言って
「俺の生い立ちを知っても同情しない非情さも俺は好ましいと思っている」
……確かに家族が一部の政治家たちに惨殺されそれを権力で隠蔽されたとしても……
「関係のない人間を巻き込んだ時点で許されるとは思っていない」
断言する三嶋慎也に俺は反対に怒りが込み上がった。
だったら。
だったら。
「だったら、なんで!! なんで、あれだけの人間を殺したんだ!!」
叫ぶ俺に三嶋慎也は冷静に息を吐き出して呟いた。
「何でだろうなぁ……ただ……もっと早くお前のような名探偵に会いたかった」
だからこそ
「俺は最後の景色の中に俺を追い詰めた名探偵がいることが何よりも幸いだった」
それだけだ。
俺は足元から響く車輪と線路が鳴らすと甲高く耳を劈く音にもう先がないことを覚悟しながら足を進めた。
「そうか、だがな。俺は探偵じゃねぇ。警察官だ。お前にこの手錠をするために馬鹿みたいに命を捨てたどうしようもない警察官だ」
俺はそう言って三島慎也の腕を掴み手錠を嵌めた。
「松田ぁ……お前なら笑うだろうなぁ。バカだってな」
それでも。
それでも。
「俺は後悔しねぇよ」
呟いた俺の耳に声が響いた。
『君……最後だ』
直後に激しい破壊音が響き、俺の意識は完全に吹っ飛んだ。
ああ、明日のニュースは大騒ぎだ。
俺はそんなことを考えた。
鳥飼聡として最期に考えたことがニュースで大騒ぎだって言うのは笑いが零れる。
そして、俺は。
ハハッと笑って……何故か目を開けた。
瞬間に女性の声が響いた。
「ラピスさま!! ラピスさまが目を覚まされました!!」
……お嬢さま! 良くお目覚めになられました!! ……
俺は齢24歳の警察官。
交番勤務の交番員で……鳥飼聡という名前を持つれっきとした男であった。
だが、目覚めた俺はラピス・ローズ・ロドリゲス公爵令嬢に転生していた。
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