第12話赤い瞳

 クレアは一直線にレヴィアタンへ切り込む。

しかし刃はかすりもしない。レヴィアタンは踊るように後退し、微笑んだ。


「ワタクシ、先ほど申し上げたはずです。平和主義だと。ですので――自分の手は汚しませんよ。『自分の手』は」


 その瞳が赤く光った瞬間、空気が変わった。


クレアの動きが止まり――次の瞬間、


自分の腹に剣を突き立てた。


「……ッ!?」


 血が飛び散る。クレアの表情に感情はない。

ただ無心で、機械のように同じ動作を繰り返す。


もう一度。

もう一度。

もう一度。


「やめろ‼ クレア!!」

レインが駆け寄るが、クレアの蹴り飛ばした足がレインの腹にめり込み、レインは地面を転がる。


「お前…何しやがった‼」

ガイラが怒号とともにヌンチャクを振り下ろす。


 だがレヴィアタンは怯むどころか微笑む。

赤い瞳が再び光った。


 ガイラの身体が硬直――


ヌンチャクが手から落ちる。


「やめ――」と叫ぶより早く、

ガイラはクレアを庇うように前に立ち、その胸を剣が貫いた。


 血を吐きながらも、嬉々とした顔で呟く。


「殺す……殺す……殺す……」


 膝から崩れ落ち、息絶えると、

クレアはまた己の腹に剣を突き立て始めた。


その光景を見た瞬間、レインの胃が反転するような感覚が走り、胃液を吐き出した。


 レヴィアタンはゆっくり近づいてくる。


「おやおや、どうしました?まだ誰も、あなたを傷つけてはいませんよ?」


レインは這って逃げようとするが、レヴィアタンの手が顔を掴む。


 赤い光が視界いっぱいに広がる。


レインの手が勝手に動く。

ダガーを握り――喉に押し当てる。


(ダメだ……やめろ……やめろやめろやめろ……!)


 身体は言うことを聞かない。


刃が喉を裂いた瞬間――



「はぁ……お前のそういうところ、嫌いじゃねぇよ。行ってやるよ」


 ――ガイラの声。


視界は馬車が目の前…

クレアも、ガイラも、生きている。


「……嘘だろ……戻った…………」


 レインの喉が震え、呼吸が乱れる。


記憶が押し寄せる。

クレアの腹を裂く剣。

ガイラの胸を貫く刃。

自分の喉を裂いた感触。


 胃の中がひっくり返り、レインは道端に吐き出した。


「レイン!? 大丈夫!?」クレアが駆け寄る。


「はぁ……はぁ……はぁ……」

レインは息ができず、涙をこぼし、全身が震える。


「なんで……なんでだよ……!!!!」


 レインは叫んだ…。街中に聞こえるような大きな声で…

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森で触れられたあの日…俺は死に戻り者になった 戸部 @20081020ikuto

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