第11話レヴィアタン

 馬車の車輪が石畳を心地よく刻む。

遠くの空に、フェスヌーラの鐘の音がかすかに響いていた。


「……結局、ネクロズマはつかめなかったか」とレインが呟く。


「そもそも信用する気なの?」クレアが首を傾げる。「元魔王軍幹部でしょ。義賊になったって本性は読めないわ」


「わかってる。でもあいつがいなきゃ俺たちは助からなかった」


 言葉に迷いが滲む――そのとき、御者のおじさんが会話に割って入った。


「お客さん、フェスヌーラに行くなら運がいい。ちょうど退魔祭の最中だろうよ」


「退魔祭?」レインは聞き返す。


「魔王が討伐された記念の祭りだ。四季ごとに一度、街全体が祭り騒ぎになる。行けばわかる――最高だぞ」


「へぇ、楽しみじゃないか」ガイラが笑う。「ってことはおじさんも――」


 レインが振り向く。


御者の頭が、消えていた。


瞬間、馬車の壁をナイフが貫通する。

反射的にクレアが飛び出し、剣を抜いた。


黒装束の影が、森の中から何十人も現れる。


「クソッ!」ガイラは支援魔法で身体能力を引き上げ、ヌンチャクを回す。

黒装束たちを殴り飛ばし、数人をまとめて倒す。


 クレアも三人を一閃で斬り伏せるが――背後から影が迫る。


「危ねぇッ!」

レインがバインドを発動。影の身体を拘束し、地面に叩きつけた。


「なんなんだよこいつら……!」


 息を荒げながらガイラが叫ぶ。

その戦場に、ひとり優雅な足取りで近づいてくる者がいた。


「騎士では……なさそうですね。冒険者でしょうか」


 その男は、血の海を歩くにも関わらず白い靴を汚さない。

不気味な笑みを浮かべ、舞台に立つ俳優のように優雅に礼をした。


「自己紹介が遅れました。ワタクシ、

六魔聖教の一人――レヴィアタンと申します。以後お見知り置きを」


その名を聞いた瞬間、レインの背筋が冷たくなる。


「……六魔聖教。招集で聞いたやつ……」


「ご名答」レヴィアタンはうれしそうに手を叩いた。「本当は争いなど望まないのですがね。魔王妃教団はとても平和主義ですから」


「平和主義が御者を殺すの?」クレアが睨みつける。


「彼には申し訳ありませんが……これくらいの刺激がないと、人間は止まらないでしょう?」


 レヴィアタンはうっとりと息を漏らす。


「協力関係……いいですねぇ。あなた方三人、実に素晴らしい。

素晴らしく……妬ましい」


背筋が粟立つような声色だった。


「……意味が分からない」クレアは一歩踏み込み、剣を構えた。


 クレアが駆けた瞬間、戦いの幕が上がった。

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