第10話旅の始まり

 部屋に戻ったレインは、迷いのない動きで装備を整えていた。

ベルトを締めながら、小さく呟く。


「――そろそろ向き合わないといけない。

俺が、死んだら戻る理由。魔の森で俺に触れた“何か”の正体を。」


 決意を胸に外へ出た瞬間――


「レイン?どこか行くの?」


 クレアが買い物袋を抱えたまま、立ち尽くしていた。


「あー、いや。ちょっと…自分探しの旅っていうか」


「冒険者が自分探しってどういう意味よ。行き先は?」


 鋭い視線に押され、レインは観念したように息を吐く。


「……魔の森のことが分かりそうな場所に行きたい」


「自分探しどこ行ったの?」


「ついでだよ。たまたま思い出しただけで――」


クレアは眉をひそめて一歩近づく。


「本当は魔の森を調べたいんでしょ」


 沈黙。

そして、レインは視線をそらさずに言った。


「知りたいんだ。あそこにいた“何か”を。俺に触れてきたあいつを」


しばらく考えた末、クレアはため息をつき、小さく笑った。


「なら私も行く。どうせ放っておいたら無茶するでしょ」


「……いいのか?」


「いいって言ってるの!」


 クレアが照れ隠しのように背を向け、レインは苦笑しながらガイラのところへ向かった。


「ガイラ。魔の森の調査に協力してくれ」


椅子に腰をかけていたガイラは、面倒くさそうに片眉を上げる。


「メリットは?俺が動く理由が欲しいんだが」


「魔の森に何があるのかを、誰よりも先に知れる」


ガイラの肩がわずかに動いた。興味が引かれた証拠だ。


「……はぁ。お前のそういうところ、嫌いじゃねぇよ。行ってやるよ」


「助かる。じゃあ馬車で移動だ――行き先は…」


 レインはクレアに目を向けた。

クレアは呆れ顔で肩をすくめる。


「向かうのは隣街、祭りの都フェスヌーラ。

あそこには“真実の書庫”って呼ばれる城の書庫があって、多くの古文献が保存されてる。魔の森の情報もあるはず」


「城?つまり貴族の領地ってことか?」


「そう。フェスヌーラを治めてるキャリオ・リルムは王位候補の一人。簡単には入れないけど」


 レインは力強く頷いた。


「よし、決まりだ。

祭りの都フェスヌーラへ――出発する!」

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