第2話義賊シェパード
クレアは村に着くと、まっすぐ魔具店へ向かった。
扉を開けると、見慣れた店主アバスが顔を上げる。
クレア「店長、久しぶり」
アバス「おお、クレアさんか。久しぶりだな」
クレアはカウンターへ歩み寄り、声を潜める。
クレア「それで、例のものは?」
アバス「まだ入荷していない。だが、もうじき届くはずだ。少し待ってくれ」
その時、カウンターの端に座っていた、やつれた男がゆっくりと立ち上がった。
男「嬢ちゃん、どこの者なんだ?」
クレアが警戒すると、アバスが小声で忠告した。
アバス「クレアさん、気をつけてくれ。こいつはシェパード。冒険者を嫌っていてな…」
クレア「初めまして。私は義賊のクレア・ジェルシアです」
シェパードは皮肉げに口元をゆがめた。
シェパード「義賊、ね。お互い苦労する立場だな」
クレア「あなたも義賊なの?」
シェパードは淡々と語り始めた。
だが、その声には押し殺した怒りと悔しさが混じっていた。
シェパード「ああ。住む場所を追われてな。俺のいた村は街外れにある、小さな場所だ。貧しい村なんて誰も守っちゃくれねぇ。
ある日モンスターが侵入したが…冒険者も騎士も来なかった。貴族は興味もねぇんだよ、貧乏人の村なんか。
村は壊滅した。あの日からだ。俺は義賊として生きる道しかなくなった」
クレアは目を伏せる。
クレア「……それは、大変だったわね」
シェパード「だからこそ、ただじゃ死なねぇようにこれを手に入れた」
シェパードは腰から短刀を抜いた。
刃がふるえると同時に、空気が切れる音がする。
シェパード「“風の短刀”。振るえば見えねぇ風の斬撃が飛ぶ。これを手にしてから、義賊としては失敗知らずだ」
そこへ――ドタドタと駆け込んでくる足音。
レイン「クレア! ここにいたのか。いやぁ、村の人に聞き回ってやっと見つけたぜ!」
クレアは呆れながらも、内心は心配が勝っていた。
クレア「もう…しっかり休んどいてって言ったのに」
そんな二人のやり取りを聞いて、シェパードの目が鋭くなる。
レイン「それよりさ、何の魔具を受け取るんだ? 終わったら冒険者ギルドに戻ろうぜ?」
シェパード「……冒険者、ギルド?
嬢ちゃん、あんた義賊って言ってたよな。なんで“冒険者ギルド”なんて言葉が出る?」
クレアは口ごもる。
クレア「そ、それは……」
レインはまったく空気を読まず言い放った。
レイン「何言ってんだ? クレアは冒険者だぞ?」
クレア「レイン! 黙って!!」
しかし遅かった。
風が裂ける音とともに、シェパードが風の短刀を振るう。
カウンターが易々と切断された。
アバス「おい、シェパード! 落ち着け!」
シェパード「店長。あんた、このクズ共を庇うってのか?」
アバスの声は震えていた。
アバス「シェパード! 考え直せ! 全ての冒険者が、お前たちを見捨てていたわけじゃ――」
言い終える前に、風の刃がアバスを切り裂いた。
左腕が宙を舞う。
クレア「店長!!」
床に血が広がる中、シェパードは吠える。
シェパード「冒険者なら街の魔具店にでも行ってな! 貴族の犬どもがよぉ!!」
クレアは震える手で剣を抜く。
目には迷いが宿っていた。
クレア「私はあなたと戦いたくない…殺し合いなんてしたくない!」
シェパード「そりゃ、お前の都合だ!!
俺は憎いんだよ! 貴族も、冒険者も、騎士も――“守るべき人間”を見捨てた奴ら全部が!!」
咆哮とともにシェパードが突撃。
風の斬撃がクレアを襲い、クレアは剣で受け止めるが、衝撃で吹き飛ばされる。
クレアの身体が床に叩きつけられる。
その瞬間、レインが一歩前に出た。
いつも弱腰の彼とは思えないほど、目は真っすぐだった。
レイン「いいか、シェパード。
冒険者は“金で買われてる”なんかじゃない。
冒険者だって弱けりゃ苦しい仕事だ。
――俺みたいにな!」
声は震えていた。
でも、その震えは「怖さ」ではなく「覚悟」だった。
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