第8話 手がかりを掴む

  宿屋横のパブ。バルーハウスにて

  最近は揉め事や行方不明の話は多いようだがセシアンコーディックスが関わっているか解らずじまいだ。


しかし、限りなく怪しい、教会の方も前の様にハッキリした物言いをしなくなっている。


隠蔽する協力者が内部に入り込んでいる可能性があるが、証拠がない、


 ソウルラウンダーの霊廟の閉鎖も建築物の老朽化が原因であるとしている

ここ3日、特に情報の収穫が無いままだ。


しかも、ギルド長、一部の教会上層部も行方が解らない。


手詰まり感を感じ、一度ヴァリシアに会って情報が無いか確認することにた。


 そんな事を思いながらカームはヴェリシアが指定している宿屋横のバルーハウスにおもむいた。


ほぼ満員かと思ったが、空いている席を見つけ注文する


「ふう。あ、ねぇさん、エールをハーフパイントで、」


  ここのパブは値段が少々高いが、小さめのグラスの酒でもオツマミも出してくれる優良店だ、少しだけ飲みたい時には丁度いい。


しかし見回しても、ヴェリシアの姿は無い。少し待てば良いだろうか?


「おまたせしました~」


元気な獣族の子が配膳してくれる。


「今日は、吟遊詩人さんがきているので、お客さんラッキーですね。」


「お、そうなの?さすが大都だね」


そんな事を言いながら、一気に一杯目を飲み干す。直ぐに2杯目を注文しメニューを見る


「本格的に何か食うかなー」


  先程から歌声が聞こえている、何とも心地の良い歌が聞こえる、吟遊詩人は小型のハーディガーディを肩にかけて歌いながら各テーブルを回って居るようだ。


「んー……あれ? ヴェリシア?」


 カームは吹き出しそうに成る。ヴェリシアは今までずっと私は吟遊詩人でしたと言わんばかり威風堂々と歌っていた。


「ヴェリシアは芸達者な人だなぁ……」


 これは、ソウルリンカーの能力で“技魂インヴォーグ”。


吟遊詩人の歌唱力やカリスマ性の技術にリンクしている。


パブに入り浸ることで多くの人から情報を吸い上げていたのだ


“ねぇ貴方の武勇伝を歌にさせて”


 そんな感じで吟遊詩人が冒険者や旅人に声をかけるのはよく有る光景だ、確かに、この方法なら素性を隠して、怪しまれず話し込む事も出来る。


 テーブルに近づく度に客から ため息の様な声が聞こえる…まあ、あのセクシーな服なので解らなくも無い。


 こちらのテーブルまで来たときには、ちょうど曲が終った、と同時に2杯めのエールが届く


「吟遊詩人さんに一杯奢ろう」


 カームがヴァレシアにグラスを渡す ヴェリシアはエールを少し高く掲げて会釈をし、グラスにキスをする。


「お心だけいただきますわ、ありがとう」


そう言いながらカームにグラスを戻す。その時カームの耳元で軽くささやく


「カイン君、目を付けられているわ。今夜の帰り道――北の裏通りで…」


ほんの一瞬、ヴァリシアの髪が彼の頬を撫で、香が残る。それが消えるより早く、彼女は次の詩を歌い始めた。


「なんだよ……まるで、風みたいだな、すげぇ…」


カームは驚き戸惑いながらも2杯めのエールを飲み干すと、直ぐにカインを探しに向かった


―――


 確かにそうだ、失念していた。

考えてみれば、ギルド受付のカインは情報通だし、注意喚起も行っている。狙われるのも解る、

ちょうど仕事終わりだったカインを見つけた。カームは歩みを緩め、夜気を吸い込む。サナに習った通りに祖霊に教えに従い問いかける


「我が身守りし祖霊の彌栄よ、忌しき獣の息吹、知ろし召す」


カームは剣士で有りながらサナの力によって祖霊系の魔法を使う事が出来る。


感覚が拡張され自身を中心に空気の波が密やかに広がっているように感じる、


一陣、二陣、三陣―――


空気の波は僅かな風となって戻って来る。カインを中心に背後からは鋭い刺のような敵意。


斜めの路地からは、獣じみた荒い息遣い。


さらに遠く、闇に潜んだ者たちからは、湿った嘲笑と怠惰な感情さえ伝わってくる。


ひとつではない。


少なくとも三つ、四つ。悪意を帯びた視線が、カインを囲むように迫っている



――――かたはなり


カームは唇を結び、祖霊の声を心に刻んだ。“かたはなり”祖霊からこう言われるときは何か不足している時だ。


それもそうだ、普段は魔獣や獣を検知する技術なのだ、


それでも個体人数が纏まって動いているのが解る、しかし確証がないし正確ではない。


僅かな風が戻って来る。


――――二つ、あしひきの


「全部で6人…多いな…2人に気づかれたか…」


 どうやら、カインも状況に気がついているようだ、尻尾の毛が膨らんだり、落ち着いたりする。


運良くカインを尾行する奴等と思われるヤツの後ろを取れた。


 カインの尻尾の先が特定の向きを定期的に指す、どうやら、匂いでカームの事も気がついたようだ。


 さすが獣族である。尻尾の先で尾行者の位置を知らせる、カームとカインは長い付き合いなので、その辺は阿吽の呼吸である。


 カインが人気の無い道の角を曲がって入ろうとした時、尾行者の一人が走り出す、しかし、獣族カインの“瞬歩”は、そこらの者には捕まえる事はできない。あっと言う間に脇をすり抜ける。


カインの“瞬歩”を合図にカームも動くすれ違いざまに


「カームさんあと二人様子を見て潜んでいるようです…前方の二人は逃げたようです。」


 尾行者は慌てて振り返るが、そこにはもうカームが“縮地法”で一気に間合いを縮め、勢いを殺さずに膝を尾行者の腹にねじ込む。


“ドウゥ”と鈍い音がして、尾行者は無惨に地面に倒れる

倒れた尾行者にカームが低い声で言う


「少し話を聞かせてもらおうか」


カインが“おおっ”と言うような顔をしながら


「やり過ぎでは?話聞けないじゃやないですか」


 カインが言うが、カームは尾行者が、かなり鍛錬をしている冒険者という事を動きで見抜いていた、残りの3人の存在も上級者なら部が悪い、なので確実に仕留めたかったのもあった。


「カイン、こいつ、行方不明になってた冒険者だ、これぐらいでは死なねぇ」


カインが風を臭う。


「二人は動きませんね。でも…」


 カインは探知の能力は無いが、匂いでわかるらしい、

カームは尾行者の一人が敵意を剥き出しで近づいているのが解った。


「カイン、緊急事態だ、エレメント魔法を使うぞ、」


「はい。町中での攻撃呪文の使用を許可します」


瞬間、カームのシルエットが薄い紫色に染まる。


 鞘から剣を抜く、剣の身幅が見え始めると、そこに紫色のいシルエットが渦を巻く様に刃の方に光が集約され、上身が完全に露わになる頃には刃から僅かに離れた部分から光が数センチ吹き出し色は赤→オレンジ→黄色→白色、と色が変わる

以外に派手に見えるこの技を見ても一人は殺意をもって近づいてくるのが解った、


「ふむ、なるほど、これを見ても来るか…」


カームの剣術を目にすれば、冒険者やこの国の人間ならすぐに彼のスキルを察するだろう。


彼の付与魔法は高度なもので、この国のイベントでも演舞を何回か披露しているし、その強さも良く知られている。


それを承知のうえで殺意を抱き近づいてくるのは、よほどの手練か、あるいは無知な者に限られる。


ゆえに、この追跡者が町の人間でないことは明らかだった…

尾行者は暗殺者らしくカームの後ろから首を狙ってとびこんでくる

カームが背を向けたまま一瞬、剣を振り上げた様に見えた瞬間


――、一閃

カームの周りが明るくなる


「――焔雷白熾刃!」(えんらいはくしじん)」


 空気が揺れたのか、地面が揺れたのか解らない様な短い轟音が鳴る。カインは猫耳を抑えて丸くなり毛が逆立つ、一瞬なのに感知した振動は長く身体に残っていた。


「あがっ?」


 バランスを崩し地面に突っ伏す様に倒れ込む本能的に体制を立て直そうとした瞬間、尾行者は嫌な匂いを嗅ぐ、尾行者は腕二本無くしていた。


「あがぁぁぁぁっ」


 切られた腕の切り口は焼け爛れ一部は炭化していた。凄まじい痛みが尾行者を襲い地面でのたうち回る。


 カームは、すかさず尾行者の背を踏み鎮め、その身動きを止めた

異様な光を放っている剣をしまわずに残りの尾行者の方を見る。


「来るか?……」


 カームはわざとスキル持ちだと見せて引いてくれるのを願っていた、残りの尾行者の動き次第では本格的な戦闘に成る情報が乏しいので出来れば避けたい、でも来るならやるしか無い。


「逃げましたね…」


 カインが言うと、カームはねじ伏せていた尾行者に背を向けて剣を収める。

腕を切られた尾行者は今がチャンスと、その場を獣の様な跳躍で逃げていく。


「あ、こっちも、にげ…」


カインが慌てると、カームが少し笑いながら


「大丈夫だ、彼女が追ってる。」


カインとカームの合間に一瞬ヴァリシアの姿が浮かぶ、


――んふふっ


そんな声が聞こえそうな笑顔と甘い香りを残し、スッっと消える。

カインはびっくりしって変な声を出す。


「え、うわ、ぉばぁ化け?…あ、あれ?……」


その声を聞いてヴァリシアの声だけが小さく残る


――「だれが婆婆よ?」


その声は少し笑っていた。


ソウルラウンダーのやリンカーの術はどうなって居るのか解らないが、おそらく今のは思念体だろう。


サナも良くあれで修行だと言って人を驚かせいた。


「えー。そんな事言ってない……」


カインの耳は傾き尻尾は力なく垂れていた


「笑ってたから大丈夫じゃ無いかな?」


カームはカインを慰めるのであった。



カームは気絶している尾行者をフードはぐる。


「あぁ。こいつ行方不明になってる冒険者じゃねーか」


「あー。ホントだ、この人最近失敗続きで…」


カインは呑気にそんな事を言いながら手際よく手持ちの布で猿轡と手足を拘束していく。


「吐かせるのは任せてもらえますか?…Restraint Assessment!!」


呪文を唱えると、魔印の付いた白い布は黒く変わり印が白く反転して硬化する

――――


Restraint Assessment (レストレイント アセスメント)

この呪文と魔印された布で拘束された部分は術者が拘束を解く呪文を使わないと解くことが出来ないと言われている。

例外は有るが公開はされていない、国に登録された者しか使えない決まりになっていて拘束する魔印布も国の公務員とギルドの上層部しか持っていない


――――


カームはの拘束呪文を聞いて捕縛している冒険者を見る。


「カイン。おまえ、怒ってるだろ、??」


カームはニッコリ笑いながら


「そんな事はないですよっ」


カームは改めて捕縛されている冒険者を見る

とんでもなく苦しそうな格好で拘束されているのを見てカームは笑いをこらえる

これ、わざとだろ…


「ぷぷぷっ」


「やだなカームさん。笑っちゃだめですよ」



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貴方と…神と…転生と 活華鼠 @ikebana-nezumi

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