転生したらごま団子職人だった俺はパーティを追放されたので田舎でスローライフを満喫します~10³²個のごま団子を作るとブラックホールになるけど追放して大丈夫?~

@saiun3

第1話 転生した俺は、ごま団子スキルを背負って異世界に立つ

 視界に突き刺さる鮮烈な青。

 頬に触れるひんやりとした草の感触。

 鼻孔をくすぐる、麦と湿った土の混ざり合った匂い。


 俺は、目を覚ました瞬間に理解した。


(……異世界だ)


 なぜ断言できるのかと言えば、理由がある。


 前世の俺は、大学も出た後も料理研究にどっぷり浸かった“ごま団子狂い”で、

一日の8割を団子に捧げる生活を、10年続けた変人だった。


 そして——死因もまた、ごま団子。


 いや、本当に恥ずかしいのだが、

徹夜でバカみたいに研究して、油を加熱しすぎて爆発させ、

床に散らばったごまを踏んで滑って、

頭を壁に打ちつけて昇天した。


 ブラックな会社にいた頃の疲れが残っていたのか、もう体が限界だったのか、

気づけば俺はこの森に転がされていた。


 そこで、頭の奥に突然、声が響いた。


——〈固有スキル“無限製菓術:ごま団子”を付与しました〉

——〈あなたは創世系調理スキル保持者候補として転生しました〉


 創世系って何? 候補って何?

 疑問だらけ。


 だが、もっと衝撃的な“追加説明”が続く。


〈※重要:累計生成数が10³²個に達すると重力臨界が発生し、“魔星核(ブラックホール)”が形成されます〉


「いや、なんで!?!?!?!?」


 俺は全力で叫んだ。森の鳥が一斉に飛び立つ。


(ごま団子のスキルでブラックホールって、どういう文明なの!?)


 説明してくれ! と叫びたかったがスキルはそれ以上何も言ってこない。


 ひとまず俺は起き上がり、周囲を観察した。


 草は背丈ほど、木々は日本の三倍は大きく、

 地面は黒く肥えた土。

 鳥も、どこか爬虫類っぽい。


(間違いなく地球ではない)


 腹が減っていたので、さっそく“ごま団子”を作れるか試すことにした。


「スキル、発動……って言えばいいのか?」


 適当に手を握った瞬間——


 手のひらに、ふわりと温かい感触。


(……え?)


 次の瞬間、俺の手の中に、

香ばしい湯気を立てる完璧なごま団子が生成されていた。


「すげぇ……!」


 中華鍋も材料も使ってないのに、本物の団子。

 まるで神が握った団子。

 いや、神の団子?


 恐る恐る口に入れる。


「……うまっ!」


 昔、旅先の中華街で食べた一番うまい団子よりも格段に上だ。

 外はカリッと香ばしく、中はとろける餡。

 蜂蜜が微かに溶けて、黒ごまの苦味を引き締める。


(これ、やばくね……?)


 この団子が無限に作れるとか違法では?

 世界経済を壊すレベルでは?

 いやそれ以前に、10³²個で世界壊れるんだった。


「慎重に生きよう……」


 そう誓った直後だった。


 茂みが揺れた。


 鼻をつく獣臭。

 木々の隙間から姿を現したのは、牙の生えた巨大猪のような魔獣。


「……うわぁ、チュートリアル戦か」


 明らかに殺気を放っている。


 俺は素早く団子を二つ生成し、構えた。


「いくぞ、団子スキル!」


 猪が突っ込んできた瞬間——

 俺は団子を手裏剣のように投げつけた。


 術式展開。

 団子は光を放ち、

**“魔力ごま団子弾(スフィアショット)”**となって疾走した。


 ドガァァァァァン!!!


 猪が吹き飛び、地面に深い溝が刻まれた。


「……えぐい威力だな、おい」


 猪は痙攣して動かない。

 団子でここまでできるなら、戦闘も困らない。


(……でも、あんまり使いすぎるとブラックホールに近づくしな)


 俺は倒れた魔獣を前に、複雑な気持ちになった。


(俺……本当に団子で生きていくのか?)


 だが、この疑問への答えはすぐに現れる。


 森を抜け、王都近くの道に出たところで、

武具を装備した四人組が魔物と戦っていた。


 青髪の青年が叫ぶ。


「ガルバ! ミラ! 持ちこたえろ!」


 戦士ガルバが斧を振るい、僧侶ミラが治癒魔法を放つ。

 魔術師ルネッタが炎の矢を放ち、敵を打ち倒す。


(おお、ファンタジーだ……!)


 戦いの最後、青髪の青年が俺に気づいた。


「君、ただ者ではないな。

 さっきの魔力の揺らぎ……もしや戦えるのか?」


「団子なら作れます」


「だ、団子!?」


 勇者アルドの目が輝いた。


「団子で戦えるのか?」


「まぁ……団子で魔獣を倒してきたところですね」


 勇者一行は驚異的な早さで“即採用”を決めた。


「君、俺たちの仲間にならないか? 食料も戦闘も強化も全部まかなえる!」


(軽いな!?)


 だが俺も、この世界で生きるには仲間が必要だと感じていた。


「わかりました。よろしくお願いします」


 ——これが、のちの追放劇の始まりでもあった。


 勇者パーティの生活は、それはもう雑だった。


●朝

アルド「ユウト、団子10個ちょうだい!」

ガルバ「俺は50個!」

ルネッタ「甘味強めでお願いね!」

ミラ「治癒効果上げたやつ!」


●昼

「団子追加!」

「強化団子の強化版ちょうだい!」

「団子がないと戦えない!」


●夕方

「今日は団子風呂に入りたい気分だ」


(使い方おかしいだろ……)


 だが、彼らの強さは確かだった。

 団子を食べれば剛力と俊敏を得て、魔獣を一瞬で粉砕する。


 しかし——

 俺は徐々に、彼らの態度の変化に気づく。


「ユウト、昨日の団子、ちょっと味落ちてない?」

「いや同じレシピですけど」

「努力足りてないんじゃない?」

「もっと俺たちのために働くべきでしょ?」


(……あれ? 俺、なんか家政婦扱い?)


 団子を食う時だけ褒めるが、

一番大事な「人としての扱い」を微妙に軽視している。


(……嫌な予感しかしない)


 魔物討伐から戻ったギルドで、それは起こった。


「ユウト、クビだ」


「は?」


 勇者アルドが平然として言う。


「お前の団子、強すぎるんだ。

 俺たちの実力が正しく評価されない。

 団子依存の勇者なんて、恥だろ?」


 ガルバが頷く。


「ていうか、団子の硬さが毎日違うしな」

「プロなら味のブレをなくせよ」

ルネッタ「あ、昨日の団子、私ちょっと太ったからさ、カロリー減らせない?」

ミラ「私の分にだけ美肌効果ないのって嫌がらせ?」


(いや無茶苦茶言ってるな!?!?)


 アルドが袋を投げてきた。


「退職金だ。銅貨十枚。じゃあな」


(安っっ!!!)


 俺は荷物を持ってギルドを出るとき、最後にぼそっと言った。


「……10³²個作るとブラックホールできるって説明にあったから、後で泣きついても知らないぞ?」


「は? なにそれ」


 勇者パーティは鼻で笑い、俺は王都を離れた。


 ——だが本当に、世界を巻き込む大問題になるとは誰も知らなかった。

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