雲みたいな親友へ
永遠みどり
雲みたいな親友に
気が付けば、季節は秋になっていた。人間が上着を着始め、植物は次々と脱ぎ始める準備をしている、そんな風情とやらを感じられる歩道を、部活終わりの俺は歩いていた。
ふと眩しさに目を細めつつ空を何の気なしに見上げる。見事なまでにオレンジ色にそまっている空を羊の群れのような雲が覆い尽くしていた。 そういえばこの前、理科の先生も雲をみながら言ってたな。 なんだっけ……せき、ら、こ……こう、あぁそうだ。 高積雲だとか、そんな名前だった気がする。確か、多分。先生がおちゃらけながら「めぇ~」なんて効果音つけて「羊の群れのように見えなくもない雲です」と言って腹を抱えて笑った事は鮮明に覚えている。
そんなくだらない事を思い出しながら、俺は夕暮れの坂道を軽く走りながら下り始めた。サッカー部に所属しているものの、一年目の俺はまだまだ雑用ばかり。上下関係が目立つ環境で満足に球蹴りさえ叶わないのはいつもの事で体力が余って仕方ないのである。
「18:30……よし。まだ時間あるな」
坂の一番下に来た所で一旦、深呼吸をする。腕時計を確認しながら。この時間ならきっとまだ"あいつ"はあの場所にいるだろう。平和ボケした同級生の顔を思い出して口角を上げた。いまなら、まだ間に合う。本来なら左に曲がる所を俺は逆に曲がる。いつも通りの帰路から遠ざかるそんな道を。
時々、前を歩いている先輩に「ウィスッ…」と小さく挨拶しながらも(声をかけられる前に)随分と見慣れてしまった風景を横目に次々と追い抜いて、たどり着いたのは──小洒落た小さな喫茶店。今の俺では新鮮な気持ちを欠片も感じる事の出来ない暖かな場所である。
入口の近くの壁は、生き生きとしたツタが屋根を目指して伸びているし、花壇にはよく分からないけど、秋に咲いてそうなお花も揃えられている。その花壇の石レンガの上に点々と置かれるウサギのランプもまた可愛らしいのはいつもの事。なんて眺めて小さく溜息を吐く。
だって俺はあまりこういったオシャレなところに興味がない。なによりこの場所が俺に不似合いである事は自分がよく分かっている。
どちらかと言えば読書や静かな場所が好きな妹の方が興味を持ちそうな、雰囲気が目立つお店だから。一応は。
そんな興味のない俺がわざわざ走ってまでここの店を訪れたのは単純に親友がここでアルバイトをしているから。たったそれだけの事。
その彼は、体育とかの運動神経は悪くないどころか、クラスでも上位を張れるポテンシャルだってある。なのに帰宅部でバイト戦士として時間を費やしている勿体ない親友だ。
そして俺は曇りガラス越しに見えるシルエットを目にガラス扉に手をかけた。
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