彼女は、あの日も花火にやって来た。
@Aoi_sheside
第1話 線香花火が落ちる前に
僕たちは、いつからいつまで共犯関係だったのか。
これは、どこまでも変わらないあの花火の日から始まる17年間と、それに連なる記憶の物語。
夏になるといつもあの花火の日を思い出すのは、きっと彼女のせいだと思う。
高校3年生の夏、小学の同窓会として集まったメンバーの中に、何故か中学から一緒になったはず少女、金子岬が居た。
彼女は、相変わらず無愛想で、どこかミステリアス。だけど、はにかんだ顔は、少し可愛いらしい。と、昔の僕なら感じたはずだ。
この頃の僕は、彼女に会わせる顔はなく。ただただ、憎悪のような、苛立ちのような否定的な感情しか持ち合わせていなかった。
彼女からすれば、僕もそうであったろう。彼女は、終始目を合わさず、最小限の会話しかして来ない。
そりゃそうだ。僕たちは、この日まで面と向かってまともな会話をしたことがなかったのだから。
この日彼女は花火をしに来るはずがない招かれざる客だった。
彼女との中学時代は散々な思い出しかなく、僕たちの関係は互いにトラウマでしかないはずだ。
彼女がわざわざ隣町まで来て、一緒に花火をしようものなら何らかの企てがあるはずだと思う程、あの頃の僕は拗らせていた。
手持ち花火、線香花火と言った花火を一頻り楽しんだ男女6人のグループは、最後に打ち上げ花火に点火した。
防波堤を照らす光を離れた位置で見ていた岬と僕は、ただ一度も会話を交わすこともなかった。
もしかしたら、招かれざるは僕だったのかもしれない。
この日が、僕にとっての分岐点で、沈黙で繋がる2人の終着駅だった。
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