EP2:「音声データ ― 校内証言の断片」
[音声ファイル_asaoka_kazuma01.wav]
(再生)
え? あぁ、はい……掲示板の話ですか。いやぁ、正直に言うと、住所と名前さらしちゃったのはまずかったですよね……。今さら思えば、あれは軽率でした。だって、こうして変な人が来ちゃったわけですし。あ、失礼しました。そういう意味じゃないです、はい。
でも、心配してるのは本当なんです。焦ってたんですよ。あいつがいなくなってから、なんかずっと落ち着かなくて。掲示板にも書いたんですけど、思い返せばちょっと前から変だったんですよ。
失踪のちょっと前、弓道部の活動写真が校内の掲示板に張り出されたんです。普通の集合写真なんですけど……そこに、実際にはその場にいない男みたいなのが映ってて。それが、失踪した□□にかぶさるように写ってたんですよ。
……はい、かなり不気味でした。最初は「心霊写真だ、ぎゃー」ってなってから、ちょっと時間が経って、「悪戯だろ」ってことで片付けられて、みんな笑って終わったんですけど……。
そんなこんなで、ちょっとした話題になって、気づいたらその写真もなくなってて。それからなんですよ、あいつがぶつぶつ独り言を言うようになったのは。なんか、誰かに話しかけてるみたいに。
で、ノートを見たら……ずっと同じ文字を書いてるんです。「かえして」って。ページいっぱいに、何度も何度も。まじで怖くないっすか? 冗談じゃなく、背筋が寒くなりました。
とにかく、みんな心配してるんです。事件かもしれないし、ただの家出じゃないと思うんですよ。だから……何か調べてもらえませんか? 有名な新聞社の人なんですよね? こういうの、記事にできるんじゃないですか? 協力が必要なんです! お願いします…。
(終了)
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[音声ファイル_onodera_kouji01.wav]
(再生)
あ、はぁ。あ~、□□のことですよね。なんでも家出したとか聞きましたけど、ええ、軽く耳にしました。大丈夫なんすか? てかもう結構たってません? やばいっすね。
えぇ、あいつとは1年の時からクラス一緒だったんですけど、ん~、でもあんまりしゃべったことないっていうか。まぁ、普通にいるなーくらいの感じで。
あ、でもあれっすよね、心霊写真の。あれはやばかったなぁ~。てか、ウケたっていうか。今時あんな悪戯するやついるんかーって。みんなで見て笑ったんすよ。いや、ほんとに。
しっかし、どこに失踪したんすかね……。
あ! わかった! 女ってことないすか? なんか最近のあいつ、追い詰められてたっぽいし。そういうのって大体女じゃないっすか。いや、マジで。
まぁ、そうっすね。なんかわかったら、ぜひ教えてください。はーい。
(終了)
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[音声ファイル_kitagawa_youko01.wav]
(再生)
はい……付き合っていました。えぇ、1年くらい前からです。私も弓道部で、それで、一緒に帰ることが多くて。家が近いんです。中学は隣で別だったんですけど、高校に入ってからはずっと近くにいて……。
もう1週間以上、連絡が取れていないなんて、信じられなくて。毎日、携帯を見てしまうんですけど、何もなくて。あの人、嘘をつくような人じゃないんです。どっちかっていうと、嘘をつかれる側っていうか……頼りないところもあるけど、すごく優しい人で。私も、随分助けられたと思います。支えてもらったこと、たくさんあります。そんな彼が、いなくなっちゃうなんて。どうしてなのか、何もわからないんです。
心当たり、ですか? ありません。私とは上手くいっていた、と思いますし。何か悩んでいる様子も、ありませんでした。警察にお話しましたけど……あてになりません。本気で探しているようには思えなくて。きっと「家出だろう」とか、そんなふうに片付けられてしまうと思うんです。
お願いです、探してくれませんか? 本当に困っているんです。えぇ……すみません、取り乱してしまって。
憑りつかれていたみたい、ですか……? そんなことありません! 元々気が弱いから、そう見えちゃうんだと思います。
はい、ええ、そうですね。あの、何かわかったら教えてもらえませんか? どんな小さなことでもいいんです。お願いします……。
(終了)
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[音声ファイル_takahashi_ippei01.wav]
(再生)
え? まさか教育委員会の依頼じゃないですよねえ……。いやぁ、困りますよ、ほんと。まず最初に言わせてもらいますけど、うちの学校にいじめなんてありません。あるわけがないんです。全員仲良しで、健全な環境なんです。そこは誤解しないでください。
それで、なんの調査なんですか? □□君の失踪についてですか? それなら、学校は関係していないってことははっきり言えますね。本人の問題でしょう。学校に責任を押し付けられても困ります。
写真? ああ……なんかありましたね。生徒の悪戯ですよ。心霊写真だとか騒いでましたけど、そんなものはただの遊びです。どこにいったかって? さあ……本人が持って帰ったんじゃないですか? いちいち覚えていませんよ。
あの、すいませんが、こういう真似はもうやめてもらえませんか? 生徒が一人いなくなったというだけで、ただでさえ世間の目が厳しいんです。こうして取材だなんだと騒がれるのは、本当に迷惑なんですよ。学校の評判に関わりますからね。
何の取材か知りませんが、協力はできません。はっきり言って、これ以上関わらないでいただきたい。あと、繰り返しますけど、本校にいじめはありません。変な憶測の記事なんて絶対に書かないでくださいね。わかりましたか?
(終了)
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[音声ファイル_sasamoto_kumi01.wav]
(再生)
(布がこすれるようなガサガサした音)。
すいませんね、こんな狭いところで……。今、お茶をいれますから。どうぞ、少し待ってください。
あの子のことをお調べいただいていると伺いました。本当にありがとうございます。本来なら謝礼をお支払いすべきなんでしょうけれど……すみません、そんな余裕もなくて。
もう2週間以上経過しているのに、何も進展はないんです……。毎日、警察からの電話を待っているんですけど、鳴らないんです。携帯を握りしめて眠るようになってしまって……。夜中にふと目が覚めると、あの子が帰ってきているんじゃないかと玄関まで見に行ってしまうんです。何度も、何度も。
……ええ、女手ひとつで育ててきました。離婚してから八年、あの子はずっと私の支えで……。
でも、気づけば支えてもらっていたのは私の方だったのかもしれません。毎朝、必ず「いってきます」と笑ってくれる子で……。あの笑顔がもう見られないなんて、信じられなくて。
そういえば、あの子は靴を揃えるのが癖でしてね。どんなに急いでいても、必ず玄関で揃えてから出ていくんです。あれを見ると、あぁ今日も元気に行ったんだなって安心できて……。すみません、関係ない話ですよね。でも、そういう子だったんです。
机の上には、コンビニのレシートが何枚も散らばっていて。おにぎりばかり買っていたみたいで……。私が夕飯を作れなかった日の証拠みたいで、胸が痛むんです。もっとちゃんと作ってあげればよかったのに……(母親のすすり泣く声が聞こえる)。
……すみません。ええ、はい。はい。変わったこと、ですか? えぇ、と……あぁ、そうだ……思い出しました。二週間ほど前、夜中に玄関の鍵が勝手に開いていたことがあったんです。私が閉め忘れたのかと思ったけれど……。その時、息子は部屋で何かをぶつぶつ言っていて。聞き取れなかったけれど、同じ言葉を繰り返していたような……。
(長い沈黙)……すみません、もう、これ以上は……。
……はい。え? 写真ですか? ええ、部屋にいくつか残っていました。はい、息子の部屋です。ええ、かまいませんよ、ぜひ調べてください。お役立ちするのであれば、持って行っても構いませんので。
では、こちらです。(廊下を歩く音) ……ここです。ここが息子の部屋です。
ええ、この写真のことでしょうか。弓道部の集合写真ですよね……あれ? これ……この息子の肩のところに写っている人……「これ、誰?」
(終了)
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[xxx編集部:注釈]
これまでに確認できたのは、5つの音声ファイルのみである。(※ファイル名となっている個人名は仮名としている)
時系列順に並べると、その次に現れるのは写真館で撮影された動画ファイルだ。
ここからは推測になるが、恐らく件の弓道部の集合写真の現像先を突き止め、改めて取材に赴いたのだろう。
その際、何故K氏がボイスレコーダーからビデオカメラへ切り替えたのか。これは推測に過ぎないが、録音は許可を取らずに行っていた可能性がある。
映像ならば「証拠」としての説得力が増すと考えたのかもしれない。あるいは、音声だけでは記録できない“何か”を感じ取っていたのだろうか。
次に見つかったのはいくつかの動画ファイルだった。しかし、その多くは破損しており、通常の方法では開けなかった。ファイル名の一部は文字化けし、再生を試みるたびに「不明な形式です」というエラーが表示される。専用のソフトで読み込んでみても、音割れや画像の劣化が酷く、断片的なノイズばかりが続いた。
復元作業中、画面に一瞬だけ人影のようなものが浮かび上がることがあった。フレームの乱れか、あるいは錯覚か。深夜に作業を続けていたせいで目の奥が痛み、幻覚のように画面が揺れて見えた。だが、それでも「何かが残っているはずだ」と信じて作業を続けた。
結果として、一部ではあるが復元できた。
復元済みのファイルも資料として公開する。
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