第1話 ラノベのモブはすぐ死ぬので死なない程度に上書きしちゃう

目を開けると、知らない天井があった。

なんとなく直感で分かった。ここ、小説の中だ。

そして僕は……主人公でもヒロインでもなく、ただのモブらしい。

名前すら用意されてなかったので、勝手に 風洞(かざと)純太 と名乗ることにした。

まあ、名乗らなきゃ自分でも困るし。

ぼんやりしていると、頭の奥に妙な感覚が走った。

どうやらこの世界では、モブにも一応“能力”が付くらしい。

作者が適当に決めたランダム設定なんだろう。

で、僕の能力は

上書き。

最初は聞き間違いかと思った。

でも試しに、机に手を置きながら小さくつぶやく。

『上書き。机の上に消しゴム一個』

次の瞬間、ぽつんと消しゴムが現れた。

マジかよ。

こんなのモブが持ってていい能力じゃないだろ。

でも、だからこそだ。

悪用なんてしたら絶対ロクなことにならない。

僕はあくまで背景。物語に関わる気は一切ない。

ただ、ひとつだけ分かっていることがある。

モブって、油断するとすぐ死ぬ。

主人公のバトルに巻き込まれたり、イベントのとばっちり受けたり。

そんなのは絶対ごめんだ。

「純太ー!放課後ゲーセン行かね?」

クラスメイトAが軽く手を振ってくる。

悪いけど、今日はダメだ。主人公、今日バトルイベントあるし。

「……悪い、帰るわ」

小声で追加する。

「上書き。今日の俺の帰り道は遠回りになる」

これで巻き込まれる可能性は下がった……はず。

『俺はただ死にたくないだけなんだこの能力使って平和に生きさせてもらうぞ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る