第13回 漫才台本「ホラー映画」

佐々木キャロット

漫才台本「ホラー映画」

[補足説明]

 これは、北見(174cm やせ型・ボケ)と森川(165cm 眼鏡・ツッコミ)からなる漫才コンビ「ボールボール」の漫才台本である。なお、ネタ作りは北見が担当している。



森川:どうも~北見と森川で「ボールボール」です。よろしくお願いします。


北見:森川、貴様に夢はあるか?


森川:おっと、急にどうしたんだい北見くん。今から漫才をしていこうという、この時に。


北見:俺には夢がある。それは映画を撮ることだ。


森川:なかなか壮大な夢だね。じゃあ、漫才に戻ろうか。


北見:既に脚本は出来上がっている。


森川:うん。漫才しようか、北見くん。


北見:ジャンルは「ホラー」だ。


森川:きーたーみーくーん。


北見:今日は、特別に、貴様らにもこの傑作の内容を教えてやろう。


森川:すみません。今日は漫才ではなく、北見くんの独演会になるみたいです。


北見:これは、見ると死んでしまう「呪いのビデオ」の話だ。


森川:さっそく始まりました。


北見:テレビ局に勤める主人公が都市伝説の調査として、その「呪いのビデオ」を見ることになる。


森川:ちゃんと考えてきてはいるみたいですね。


北見:ビデオを再生すると、暗闇の中にポツンと井戸が映っている。(しゃがんで体で井戸を表現する)


森川:おっと。これは井戸のつもりですか?


北見:そうだ。(しゃがんだまま森川を見上げて)


森川:うわっ。急に会話してきた。いままで無視してたくせに。


北見:主人公が画面をじっと見ていると、急に井戸がスポットライトに照らされて、そこから男が、ぴょーんと。(実際にその場で跳びあがる)


森川:いや、アーティストの登場‼コンサートでバンドのボーカルがよくやるやつ‼ てっきり貞子みたいに女が這い出てくるんだと思ってたよ。


北見:ここでBGMが流れ出す。


森川:ん?BGM?


北見:(スタンドマイクを握って囁くように)きっとくる~♪きっとくる~♪かがや~く~未来が~I want you to smile~♪


森川:全然怖くねーな。普通に歌詞のいいバラードじゃねぇか‼


北見:さっきからうるさいぞ、森川。


森川:おぉ、ごめん。でも、全然怖くないからさ。


北見:なんだと?(森川に詰め寄って)


森川:あぁ、ごめん、ごめん。(怯えるように)


北見:なら、別の案を話してやろう。


森川:他にも案があるの?


北見:この話は怖いぞ。怖すぎて心臓が爆発するかもな。


森川:表現独特だけど、相当自信があるみたいです。


北見:これは、ある都市伝説を題材にした物語だ。


森川:ああ、始まった。


北見:あるカップルが肝試しをしようと、深夜に山奥のトンネルを訪れた。


森川:深夜のトンネルは期待できそうですね。


北見:カップルが身を寄せ合いながら、恐る恐る歩いていると、そのトンネルの先に老婆が一人立っているのを見つける。


森川:えっ、何、その老婆。


北見:手足は木の枝のように細く、顔は長いぼさぼさの髪に隠れて見えなかった。


森川:いや怖い怖い。トンネルにガリガリ老婆は怖い。いい感じじゃん。


北見:カップルがあまりの不気味さに進めないでいると……ヴォーヴォーという唸り声が。(マイクに近づいて)


森川:うわっ、嫌な音。


北見:すると、ゆっくりとその老婆の顔が上がり、カップルを指さして。(片手でスタンドマイクを持ちながら老婆の動きをする)


森川:何?何?何?


北見:「お前らいくぞー」(ヘッドバンギングをする)


森川:え?


北見:老婆が頭を激しく振り始めると、自然とカップルの頭も振れ出した。(ヘッドバンギングをする)


森川:なんで?なんで、みんなでヘドバンしてるの?ホラー映画は?


北見:ヴォー(スタンドマイクを傾けながらデスヴォイスをする)


森川:この音、ババアのデスヴォイスかよ‼


北見:うるさいぞ、森川。人が楽しく歌ってるときに。


森川:いや、舞台で歌わないで。ていうか、北見くん。これ全然怖くないよ。ヘドバンババアは怖いより心配が勝っちゃう。


北見:なんだと?(森川に詰め寄って)


森川:あぁ、ごめん、ごめん。(怯えるように)


北見:なら、次の案だ。


森川:え?まだあるの?


北見:これが最後だ。


森川:どうせ、また怖くないんでしょ。


北見:これは今までの二つに比べて格段に怖いぞ。怖すぎて脳汁が煮え繰り返るかもな。


森川:もう、その表現の方が怖いよ。


北見:これは富士山の麓の、ある村で行われる奇妙な祭りの話だ。


森川:また勝手に始まった。


北見:大学生の男女四人組は、その祭りをレポートに書くため、夏休みにその村を訪れた。


森川:入りは良さそうですね。


北見:彼らは村の近くにテントを張り、野宿をすることに。


森川:いいですね。怖くなりそうですよ。


北見:夜。彼らがぐっすり眠りについていると……ドッカーンと火山が噴火したような大きな音が‼


森川:え⁉急に?何の音?


北見:彼らが慌ててテントから出てくると、そこには大きな祭壇と、その上に立つ男が‼


森川:祭壇⁉いいよ⁉怖いよ⁉


北見:「サマフェス二〇二五、盛り上がっていくぞー‼」(片手でスタンドマイクを持ち、もう片手で拳を突き上げ)


森川:フェスじゃねえか‼


北見:その掛け声に応えるように、祭壇を取り囲む人々が赤い光を振りかざす‼(手を前後に振る)


森川:サイリウムだろ‼


北見:祭壇から伸びた光の道が夜空を貫く‼(光の筋を表すように手を上に伸ばす)


森川:レーザー演出だよ‼


北見:うるさいな、森川。貴様はさっきから何を叫んでいるんだ。


森川:いやいやいや。ただ、大学生が音楽フェスに参加しただけでしょ?やっぱり怖い話じゃなかったじゃん。


北見:そんなことないだろ。(森川に詰め寄って)


森川:ごめん、ごめん、ごめん。(怯えるように)


北見:果たして、この映画のタイトルを聞いても、そんな口が利けるかな?


森川:そうなの?じゃあ、教えてよ。この映画のタイトルは?


北見:「ロックサマー」


森川:やっぱりフェスじゃねえか‼いい加減にしろ。どうも、ありがとうございました。(頭を下げる)


北見:サンキュッ(客席に向けてポーズをとる)


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