創命理念で異世界ライフを

Izma

序章

プロローグ 「命の温度」

夜の雨が、静かに街を洗っていた。

アスファルトに落ちる雫の音だけが、

世界にまだ命があることを知らせているようだった。


街灯の下、**龍崎一磨**は歩いていた。

傘も差さず、濡れるままに。

スーツでもなく、ジャージでもなく、

どこにでもいる、24歳の“ありふれた誰か”として。


ただ――心の奥では、いつもと違う音がしていた。

胸の奥で小さな鼓動が、何かを訴えている。

それが痛みなのか、焦りなのかも分からない。


道端の水たまりに映る自分の顔を見たとき、

一磨はふと呟いた。


「……人って、なんで分かり合えないんだろうな」


戦争のニュース。

飢える子ども。

国同士の対立。

何かを失って泣く誰か。

そして、何もできない自分。


もしかしたら手を伸ばせば救える命があるかもしれない。

でも、その“手の出し方”すら知らない。

僕は無力だ。


それでも、信じていた。

――命に、優劣なんてない。

それが彼の“創命理念”だった。


そう思った瞬間、

視界が、暗転した。


耳が遠ざかり、足が地を離れた。

音が消え、時間が止まる。

雨粒が宙で静止して、

世界がゆっくりと反転していく。


そして――彼は“死んだ”。


その間、3.2秒。


けれど、“死”は終わりではなかった。

真白な闇の中に、何かが“いる”。


形はなく、声もないのに、確かに“存在”していた。


――律。


名前を知らずとも、一磨の心はそれを理解した。

あらゆる存在を定める、“根源の意思”。


声なき声が、頭の奥で囁く。


> 「命ハ、選定サレル」

> 「在ルベキモノ、在リ、在ラザルモノハ、消エル」


その理屈は、完璧だった。

けれど一磨は、なぜか笑っていた。


「……だったら、俺は“消える”方でいい」

「でも、“消される命”は……救いたい」


言葉を発した瞬間、

白い闇が波紋のように揺れた。

冷たいはずの空間が、一瞬だけ“温かい”と感じた。


――その温度が、「命」だった。


光が崩れ、世界が再構築される。

白が青に、青が黒に、黒が色を取り戻していく。


そして、彼は再び“息をした”。


目を開くと、そこは知らない空。

見たこともない大地。


空に浮かぶ二つの月が、彼を見下ろしていた。


「……ここは……」


雨は降っていない。

だが、胸の中ではまだ“何か”が燃えている。


命を、律に選ばせはしない。

――それが、彼の新たな“創命理念”になるとは、

この時の龍崎一磨のちのアイザックは、まだ知らなかった。

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