初めましてじゃスキにならない
「なんでついてくんだよ!昼飯くらい一人で食わせろ!」
「ごめん。知ってる人が少ないからつい嬉しくて。」
「…悪かったよ。別に嫌いだからあっちに行けとまでは言ってないだろ。」
嬉しい気持ちを率直に伝えたら耳を赤くして答えてくれた。やっぱり可愛いなぁ。
「きゃっ!」
私の目線より高い耳を見つめていたせいだろうか、足元の段差に気づかずに思い切り前につんのめった。あー、今日だけで何回事故ってるんだろ。私ってばおっちょこちょいだ…
「危ねぇ!」
パシッ!
今何が起こったの?私は一瞬混乱したが、すぐに前を行っていたみーくんが、私を抱きとめたのだと分かった。いつのまにか、みーくんは、私の身長を追い抜いて逞しい腕で私を助けるくらいに成長していた。そんな、一目見てわかることを私はやっと理解した。
みーくんこと、望月美桜は小さい頃、その内気な性格と可愛らしい名前でいじられて、泣かされ、その度に幼馴染の私のところにやってきていた。みーくんを泣かせたやつを返り討ちにすることはできなかったが、震える背中を優しく撫でることはできた。いつまでも私の中ではみーくんは小さいままだったのかもしれない。そんなことを思った。
「あ、ありがとう。助かったよ。」
「別に、普段から鍛えてるから。なんでもねえし。早く飯いこうぜ。」
そうだね、と返そうとした時だった。私は急に肩を叩かれた。
「おや、桃崎さん。どこへいくのかな?朝に伝えたよね。お昼に風紀委員室に来るように、と。」
そのまま、グイッと肩を引き寄せ私にしか聞こえない小声で続けて囁いた。
「僕から逃げようったってそうはいくものか。言ったでしょう?あなたは僕のオモチャ、所有物なんですよ。勝手にどこかにいくなんて許されませんから。」
なんと答えるか考えていると、今度は逆側に肩を引かれた。
「ほのち…桃崎が嫌がってるだろ、やめろよ。先輩なんだか知らねぇけど、風紀委員が風紀を乱すなよ。」
「これは失礼しました。僕は風紀委員長の葛。彼女、桃崎さんは朝に遅刻して先生方を混乱させてしまった。そのことについて少々お話をしないといけないだけだよ。」
「じゃあ俺も遅刻しただろ。俺も連れて行け。」
「君のところは親御さんから連絡があったからね。君に用はないよ。分かったら桃崎さんを離してあげなさい。」
「なんでテメェにそんなこと言われないといけないんだよ!」
なんだかバチバチと火花が飛び散っている気がする。私はその場を収めるべく必死に考えた。
「二人とも喧嘩はやめて!ほら、みんなで仲良くお昼にしましょ?」
そしたら、パチパチと、どこからか拍手が聞こえてきたのでキョロキョロと見回すと、私の真後ろに誰かが立っていた。だ、誰!?
「きゃーっ!みんな、生徒会長様よ!恋ヶ原玲司様がいらっしゃったわ!」
生徒の一人が叫んだのを合図にぞろぞろとギャラリーの列が形成され、いつのまにか私たちは逃げ場を失っていた。
「おいおい「仏の葛」さんよぉ、化けの皮剥がれかけてんぜ?いや、どっちかっつうとその女に剥ぎ取られたのか。」
「一体どうしたのでしょう。多忙な生徒会長サマがこんなところに。ひょっとしてお暇なんですか?」
「まさか、ちょっと騒ぎっぽかったから来ただけだ。それにしてもそこの能天気女!」
それって、もしかしなくても私のことだろうか。一応聞いてみよう。
「えっと、能天気女というのは…」
「貴様以外にいるか?喧嘩してる奴らに仲良くしろ、だなんて能天気以外の何者でもない。」
彼は小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。その仕草にムカつきながらも、私は彼がなぜいきなり突っかかってくるのか甚だ疑問だった。
「だって当然じゃないですか?仲良くしないことにメリットがあるんですか?普通に考えればないと思うんですけど。」
ほのかな怒りを込めて彼を睨み上げるように食い気味でいってやった。彼の目が驚きに僅かに見開かれたのち、口角をニヤリとあげた。
「この俺様にここまで口答えする奴は久々だ!面白い。貴様、名前は?」
「桃崎、ほのか。」
恐る恐る自分の名前を口に出すと、恋ヶ原会長の笑みはますます深くなった。
「へぇ、お前昔この街にいただろ。」
「なんでそんなことを知ってるんですか!」
「どうでもいいだろそんなこと。大事なのは俺様が貴様に興味があるということだけだ。」
「会長サマは相変わらずのご趣味で。」
葛委員長の皮肉も意に介さぬようで、恋ヶ原会長はぶつぶつと考えた後、急に目を輝かせた。
「決めたぞ!」
チュッ
何が、と訊こうとした時にはもうすでに私の唇は塞がれていた。ギャラリーの叫び声が聞こえる気がしたがもうよくわからない。
「貴様は俺と付き合え!貴様となら退屈しなさそうだ!」
「おい。そんな勝手なことが許されるか!」
みーくんが放心状態の私に代わって抗議してくれている。
「そうですよ。お互いもたいして知らず、好きあってもいないのに。」
葛委員長と初めて同じ意見になった。いいぞ、もっと言ってやってください。
「ハッ、頭の硬い奴らだ。付き合ってからこいつを俺様に惚れさせればいいんだろう?」
彼は一周回って惚れ惚れする程自信たっぷりに宣言した。
「断言しよう。貴様は絶対に俺様のことを好きになる!」
「はぁ?何言ってるんですか?」
私は反射的に声を張り上げた。
「恋ヶ原会長のことなんか絶対好きになりません!」
—こうして私のちょっと変な青春(?)が始まろうとしていた—
恋ヶ原会長のことなんか絶対スキにならないっ! @kuri-muburyure
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