1章 人間のセカイ~日常編~

01話 このセカイの内情

 吸血鬼のセカイの長から人間のセカイへと強制転移された純血のリオと混血のジニアとエリカ。吸血鬼のセカイでは純血の吸血鬼が優位に立ち、混血と、純血でも稀にいる「特権」が現れなかった者、そして、混血と仲良くしていた純血は全員、南界ノースに送り込まれていた。その中で一番優位に立っていた純血である長は、邪魔で邪魔で仕方のなかった純血でありながら混血と仲良くしていたリオ、そしてそのリオの友人であるエリカ・ジニアを、自分自身の息子であるブルースターの結晶の特権の餌食にしようと考え人間のセカイへと転移をしたのだ。


「全く……アイツ、容赦なく俺たちをこっちのセカイに転移しやがって……」

「しかも私たちの荷物、無いじゃない」

「自分たちで調達しろってことか? はあ? ふざけやがってあのクソ長が」

「どちらにしろ、どこかで"仕事"。しないといけないってことよね」

「仕事」

「そもそも俺らって、このセカイで云う年はいくつなんだ?」

「「さあ……」」


 リオたちが強制転移されたのは、街中「フェスティバル・シャムロック」。通称:シャムロック祭の準備で忙しなく動いているレルファンシエル。彼らが見たところ未成年らしい人が働いていないところを見るに、未成年は一切働いてはいけない街。だということが見て取れる。電柱から電柱に繋がっている、至るところにある旗には四つ葉のクローバーが子供の手書きで書かれており、「想い」や「繋がり」を象徴しているかのように見える。


「わあ……すごいわね」

「祭りの準備か? こんな盛大な祭り、初めて見たぞ、俺」

「…………」


 ジニアとエリカはキラキラとした目で収穫祭の準備を見ていたが、リオは急に黙り込み、何かを考えているようだった。


(そういえばこいつらは"祭り"を知らないんだよな……)

「……リオ?」

「ん? ああ、悪い」

「今暗い顔をしてたけれど、何か考え事?」

「いや、何でもない」

「そう?」


 リオの言葉を聞くとまたキラキラとした眼差しで収穫祭の準備を再度見ていた。


「俺がしっかりしないとな、祭りのことを何もわからないこいつらに、俺が……」

「俺が?」


 ジニアは困った顔をしながらリオの顔を覗き込む。


「! ジニア!? お前、急に顔を覗き込むなよびっくりしたな」

「お前が何か思いつめた顔をしたときは、俺らのことを考えてるときだろ? んなのいいよ、俺らのことなんか考えてくれなくてもさ。お前が優しいことは俺とエリカは知ってるし、そうじゃなきゃあん時友達にはなってねぇよ」


 ニッとそう笑みを溢しながらそう言ったジニア。エリカはリオの顔を見ながらジニアの言葉に黙って頷いた。


「お前ら……」

「そうよリオちゃん、リオちゃんは私たちのことなんか考えなくていいの。あなたはあなたの為に、あなたの想いを必ず尊重し」

「それはダメだエリカ」

「え?」

「俺はジニアとエリカを誰よりも大切に思ってる、俺に光を与えてくれた唯一の友達だから。だからそんなこと言わないでほしいんだ」

「リオちゃん……」

「だから」


 リオがジニアとエリカに言葉を投げ掛け終わる前に、後ろから男性の声が聞こえた。


「おいあんちゃんたち、そんなとこで話されてたら邪魔だよ。俺たちは今祭りの準備で忙しいんだよ」

「え、あ、ごめんなさい」


 電柱くらい太い木を持った男性に謝ったリオは、その場から少しだけ後ろにずれ、場所を譲った。


「見たとこあんちゃんたちは未成年か、若しくは学生か?」


 男性はくるっと後ろを振り向きながらそう言う。


「あ、え、えっと……」

「まあどっちでもいいや。未成年に見えるモンは全員働いちゃいけないことになってるからな、あんちゃんたちは広場にでも行って遊んできな」

「「「遊ぶ」」」


「分かったならさっさと広場に行きな」

「あ、はい、すみません……」


 リオのこの言葉を聞いたあと、男性は軽いため息を尽きながらその場を後にした。


 吸血鬼は人間に近い形状をしている為か、吸血鬼たちが人ならざる者だということを知らない人間も多い。実際今の男性のように、吸血鬼を自分たちと同じ人間だと勘違いをしていた。背中に黒い翼が生えていたのであれば、別なのだが…………


「…………ようやく来たか、コウのお気に入りが……」


 口角をあげながらぽつりとそう言った男は、黒い翼を広げるとにんまりとした表情をリオたちの方へ向けながらバサッバサッという音と共に姿を消した。


「……接触して来なかったわね」

「あぁ、何者なんだ、アイツは」

「さぁな、だが、只者じゃねぇよ。とりあえずこの先どうなるかわからないが、気を付けないと」


 不気味な男の言葉を聞いていたリオたちは、その男がさっきまでいた場所を見つめながらそう言う。


「…………お気に入り……誰のことを言ってたんだろう」

「さぁな、さっきのヤツと接触出来れば何かわかるんじゃないか?」

「どうやって接触すんだよ」

「それはほら~俺らの超聴覚の力でどーんってさ!」


 ニッと笑みを浮かべリオの方を見ながらそう言ったジニアを呆れた顔で見るリオは、「そんな行き当たりばったりなこと起きるわけないだろジニア」と言いながらジニアのデコを人差し指でポンと軽く叩いた。

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