第43話 もしかして、俺ってダサい?

朝の会が終わり、先生が出ていく。

その瞬間、教室の空気が少しざわっと変わった。


(……あれ?)


前の席の女子二人が、こっちを見てヒソヒソ。


「ねぇ……斎木くん……髪……」

「え、なんか前より……ね?」


耳に入ってくる声が、全部こっちを向いてる気がして落ち着かない。


(やばい……これダサいんじゃねぇの!?

 黒木……俺、変な髪型にされてね!?)


急に不安になって、思わずフードをかぶるみたいに俯いてしまう。


顔が熱い。

耳まで真っ赤なのが自分で分かる。




教室のドアが「ガラッ!」と勢いよく開いた。


「おいーーー斎木!! 来たぞーー!! 髪見せろ!!」


別クラスの黒木が、堂々と入ってくる。


(バカ!! ホントに来んなよ!!)


クラス全員、笑いながら黒木を見る。


黒木はニヤニヤしながら、俺の席までずかずか歩いてくる。


「おい、隠すなって〜。せっかくツーブロなんだろ? 見せろ見せろ〜」


俺「む、無理! ダサかったらどうすんだよ!」


黒木「ダサかったら俺が責任持って笑ってやる!!」


(それ一番イヤなんだよ!!!)



すぐに近くの席の川越が椅子を引きずりながら寄ってくる。


川越「うわ、マジで隠してるし。

   いいじゃん、見せなよ。似合ってるって絶対〜」


俺「こ、怖いもん!!」


川越「怖いって何(笑)」


その空気にクラスがドッと笑う。


(やめて……死ぬほど恥ずかしい……!!)





そのとき。


「えー、じゃあ私にも見せてよ〜」


明るい声が近くで響いた。


振り向かなくても分かる。

三浦ほのかだ。


(……っ!!)


心臓が一気に跳ねた。

昨日の美容院の記憶が急に蘇る。


ほのかは席を立って、こっちへ歩いてきた。


「ねぇ、見たい見たい! 絶対似合うでしょ〜?」


笑顔がまぶしすぎる。

その瞬間、俺の手が勝手に耳を隠した。


俺「い、いや……あの、その……」


三浦「いいから〜。ほら、ちょっとだけ!」


黒木・川越「「そうだそうだ!!」」


押され、ついに顔を上げる。

ツーブロが見えるように前髪をかきあげると――


ほのか「あっ……いいじゃん! すっごい似合ってるよ!」


心臓が爆発するかと思った。


ほのかは自然に笑って、パッと親指を立てた。


「今日、なんか雰囲気ちがうね! 元気そうじゃん、斎木くん!」


(……死ぬほど嬉しいんだが。)


黒木「ホラ見ろ〜!! 俺の言った通りだっただろ!!」


川越「これはウケるわ。絶対今日注目されるよ」


女子の数人も近くで「いいじゃん」「似合ってる〜」と話している。


俺はもう顔が真っ赤で、うつむいて机に突っ伏すしかなかった。


---


放課後の部活。


グラウンドに出ると、すぐに先輩たちの視線が飛んでくる。


2年の佐久間先輩が俺を見るなり、


佐久間「おっ…斎木!? なんだその髪、カッケーじゃん!」


別の先輩「お前急に垢抜けたな! 彼女でもできたか〜?」


(っ……ち、違うわ! そんなのいない!!)


ボール拾いをしてると、同級生の本田が肘でつついてくる。


本田「なー斎木、お前今日めっちゃ見られてるぞ。

   ほのかにも褒められたんだろ? 川越から聞いたぞ」


俺「バラすなよ!!!」


本田「いや、顔真っ赤だからすぐバレるわ」


グラウンドがにぎやかで、

野球部の空気がなんだかいつもより明るく感じた。


(ツーブロにしただけで、こんなに変わるんだ……

 美容院行ってよかった……)


アップのランニングをしながら、胸の奥がむずむずする。


(明日学校行くの、また楽しみだな……)


不思議と、肩の違和感さえ少し軽くなった気がして、

久しぶりに全身が前向きな気持ちで満たされた。

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