第38話 負傷

肩のサポーターをつけたまま登校して、

そのまま帰りにシニアへ顔を出した。

練習を見てるだけなのに、

胸の奥がずっとモヤモヤする。

(あと14日。

 14日間、野球ができない。) 


数字にするとやけに重かった。

家に帰って、いつものように

デイリークエスチョンのウィンドウを開こうとした。

……表示されない。

(あれ?バグか? いや、そんなはず――)

すると白いウィンドウがふわりと浮かぶ。


《※現在プレイヤーは“負傷状態”のため

 デイリークエスチョンは一時停止されています》


《ポイント獲得:停止》

(……マジかよ。)


痛みよりずっと重い現実に、

ベッドの上で息を吐いた。



12月16~20日:

「何もできない日々」が始まった

冬の冷たい空気の中、

外で白い息を吐きながら見学するだけ。

キャッチボールの音が

まるで別の世界の音に聞こえる。

走り込みの列に入りたいのに、

肩に響くからダメ。

バットも持てない。

投げられない。



12月21~24日:

クリスマスが近づく

街はイルミネーションでキラキラしてて、

学校も少し浮ついた空気だった。

俺は授業中でも、

つい肩のサポーターを触ってしまう。

(クリスマスなのに野球できねぇとか……

 俺にとっては地獄だろ。)

でも帰ると、

新しい家の中は少し暖かかった。

母さんが部屋をデコレーションしていて、

「晃大、気分だけでもクリスマス味わおうよ」

なんて笑ってくる。

そんなの見たら、

無理にでも笑いたくなる。


12月25日:

クリスマス

父さんも久しぶりに日本に来ていた。

夜、家族みんなで食卓を囲む。

クリスマスチキン。

ケーキ。

サンタ柄の紙皿。

「来年は野球、もっと活躍できるといいな。」

「痛みまだ残ってる?無理すんなよ。」

そんな他愛もない会話が、

思っていた以上に心にしみた。

部屋に戻ると、ウィンドウが静かに開いた。

《現在:負傷状態につき

 ステータス変動なし》

(……クソ。

 でも、来年のために今は休むだけだ。)

サポーターで固定された右肩をそっと抱えて、

ベッドに沈み込んだ。



12月26日〜年末:

冬休みの始まり

冬休みに入っても、本格的な練習はできない。

グラウンドの片隅で

ランニングのみ許可されただけ。


それでも走れるだけまだマシで、

俺は毎日、吐くほど走った。


黒木「あほか、そこまで走らんでええわ!!

   肩治さんと投げられんやん!」

斎木「……体力だけでも落としたくねぇんだよ。」

そんなやり取りも、

どこか懐かしくて、嬉しかった。

家では宿題を片付けつつ、

右肩のリハビリのためのストレッチ。

夜になると、


「デイリークエスチョン」が消えている静けさに

少しだけ寂しさも感じる。

(でも……

 次にウィンドウが出たとき、

 絶対レベル上げてみせるからな。)

負傷中なのに、

そんな決意ばかりが強くなっていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る