きっと彼は今も私を見てくれていることでしょう。
彩音
いつかに消えた君、いつかに現れた君。
パシャッジャバ
「....」
帰らぬ人となった恋人のお墓に水をかける。
「いつまでも..君が好きだよ。彼方。」
「..また、笑ってよ..あの素敵な笑顔、.、見せてね..彼方」
彼方がこの世からいなくなった時、すごく悲しくて。すごく嫌だった。
いつかはこうなる事を、分かっていたのに、現実になると、ショックが大きくてさ。
泣きじゃくったよ。彼方がいなくなってからずっと。ずっっっっと。
もう彼方は戻ってこない、そんな嫌な感情に、浸って。
でもね、気づいた。気づけた。彼方のお墓参りに行ったら、
「俺はいつまでもすみが好きだよ。大好きなすみが泣いてたら、俺は悲しいよ。泣くなよ。な?」
そんな声が、聞こえた気がした。
幻聴だったのかもしれない、ぼーっとしていただけなのかもしれない、
でも、信じてる。彼方が励ましに来てくれたんだって。
「...彼方、ありがとう。」
ピーンポーーン
彼の家の呼び鈴を鳴らす。
「はーい。」
2年前までは、出てくるのは彼だった。
けど今は、彼の母親が出てきてくれる。
「こんにちは、おばさん。」
「すみれちゃん!久しぶり!どうしたの?」
「彼方の、お墓参りの帰りです。」
「あぁ..そうね、今日はあの子の命日だものね、ありがとう」
「いえ、私が行きたいだけですから。」
「あ、そうだ、彼方の新しい遺品を見つけたの。」
「え。」
「あの子が書いた日記のようなものなのだけど。」
「ほぉ」
「どうやらすみれちゃん宛みたいなの。」
「え、私に..?」
「何かと思って、1ページ目を開いたらね、『今このノートを見ている人へ。あなたがすみれじゃないのなら、今すぐ見るのをやめてください。』って」
「『すみれだったのならば、見てください。すみれじゃないのなら、できることならば、すみれにこのノートを渡してください』ってね。」
「だからすみれちゃんに渡したくって。」
「そうなんですか。でも、貰っちゃっていいんですか?彼方の大切な遺品でしょ?」
「いいのよ。すみれちゃん宛のものだから。」
「..じゃあ、貰っていいですか?」
「ええ、もちろん」
「ありがとうございます。」
「うん、きっと彼方も喜ぶわ。」
「はい」
「またね」
「はい、おばさん。ありがとうございました。」
家に帰って、彼方のノートを開いてみる。
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『闘病書』
今このノートを見ている人へ。あなたがすみれじゃないのなら、今すぐ見るのをやめてください。
すみれだったのならば、見てください。すみれじゃないのなら、できることならば、すみれにこのノートを渡してください。
すみれ、見てくれてありがとう。
これは闘病書。俺のあれこれを書き残していく。
まあそんなこと言っても俺の日記だよ。闘病なんて立派なもんじゃない。
けどタイトルぐらいカッコつけたいじゃん?
だから闘病書。
12月10日。
病気になった。
学校で倒れて、病院に行った。
そうしたら医者に「あなたは心臓病にかかっています。余命は1年」って。
びっくりしたし、怖かったし、嫌だった。
俺がいた印を今日から、ここに示そうと思う。
12月11日。
今日学校ですみに心配された。
昨日倒れたからだろうな。
でも流石に病気のことなんて言えない。
すみに悲しい顔はさせたくない。
だから言わない。
12月12日。
昨日すみには言わないって誓ったのに、すみを見てると伝えたくなる。
すみが俺に向かって言うんだ。「隠し事とか..あるの?」って。
めっちゃ可愛い顔でさ。もう隠し事するのが嫌になる。
でも言えない。けど言いたい。
12月13日。
今日1日考えて決めたことがある。
すみには残り余命が1ヶ月になったら伝えることにする。
それまでは内緒だ。絶対に。
ごめんねすみ。
12月14日。
友達強く当たってしまった。ごめん..
病気になってから、情緒不安定になることが増えた気がする。
気をつけなければ。
12月15日。
病院に行ってきた。
相変わらず、だそうだ。
あぁーあ..病院に行くのは憂鬱だ。
自分の命の短さを、実感してしまう。
みんなと一緒にいれる時間の短さを、感じてしまう。
12月16日。
無理。死ぬ。
...嘘だよ。
今日は部活、してきた。
疲れた。
でもすみに励ましてもらった。
元気出た。
すみかわいい。すみきれい。すみ大好き。すみ..すきだよぉぉぉ。
なんかちょっときもいな。
ちょっとじゃないか?w
12月17日。
明後日から旅行へ行くことになった。楽しみだ。
旅行の間もこれは書こうと思う。
昨日の日記を自分で見て、内容がまるでないって思った。
部活つっても文化部なのにさー..
なんで疲れんだよなぁ...ほんっとにw
12月18日。
おっしゃぁぁぁぁぁ!!
すみとクリスマスデート決まったぁぁぁっぁ!
嬉しすぎて心臓止まって死ぬかと思った。。!
って、もう直ぐ死ぬ俺が言ったらネタにならねえなw
ほんっっとに楽しみだぁぁぁぁ!
12月19日。
今日から旅行!
すみと離れないとなのは嫌だけど、旅行は楽しみ!
絶対すみにお土産買って帰る!
待っててすみ!
12月20日。
旅行1日目!
ちなみに今回行ったのは北海道。
さみぃ..けどなんかめっちゃ旅行感(?)あって楽しい!
すみにあいたい。
12月21日。
旅行2日目!
昨日の夜にすみと電話した!
すみの声めっちゃ可愛い..
今日はスキーしに行く!
運動はしても大丈夫らしい。まだ、ね。
12月22日。
旅行3日目!
明日帰るのかー..てことは、すみにあえる!楽しみ!
今日はお土産買った。すみ喜んでくれるかな〜..
最終日も満喫するぞ!
12月23日。
今日は帰る日!
みんなに会えるのは楽しみだけどまだいたい気持ちもあるな..
すみに会えるのが一番嬉しい!
飛行機乗ってgo-go!
12月24日
ぃやっほー!すみにあえた!
めっちゃ可愛い。かみ。
しかも明日は待ちに待ったのクリスマスデート!!
めっちゃ楽しみーー!
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日記はそこで止まっていた。
当たり前だ。
かなたは25日、クリスマスデートの日の朝に、容体が悪化して
あの世に行ってしまったんだから。
「ふぅっ..」
日記を読み終わった私はいつの間にか泣いていた。
「彼方...っ..」
【泣くなよ】
「んぇっぅ!?」
驚いて見たら目の前に彼方がいた。
【泣かないで。俺のために泣かないで。俺、すみのこと大好きだよ。だから悲しい顔しないで。笑って!】
「っぅ..」
なんとかにこっと笑った私にかなたはほっとしたように微笑んでこう言った
「いつでもみ見てるから。また今度クリスマスデートしようね。」
そして消えていった。
ホワイトクリスマス、彼方。
10年後
「ふぅ..引っ越し作業完了!彼方のノートも..あるね。」
ペラッ
「!?」
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12月25日
今日1年ぶりにすみに会えた。
ありがとう。ありがとう。
すみ、俺のために泣いてた。嬉しいけど、悲しかった。
ありがとう。クリスマスデートはできなかったけど、
すみに会えた。それで十分。ありがとう。
ありがとう。このノートを見てくれて、ありがとう。
俺の代わりにも生きて。
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新しく、彼方の字で書かれていた。
「かなた...」
ありがとう。大好きだよ。
メリークリスマス。私の愛する人。
fin
ー総文字数3,000文字ー
きっと彼は今も私を見てくれていることでしょう。 彩音 @aya2389
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