第5話 フローレのステータス
出発の準備が整った頃、朝の空はより明るくなっていた。
私は彼女の顔色が戻ってきているのを確認し、小さく安堵の息をつく。
「……少しは、良くなった?」
「はい。グローリア様が……助けてくださったおかげで……」
フローレは胸元を押さえながら微笑む。
その顔には、さっき見せていた涙と不安がほとんど残っていなかった。
(良かった……本当に良かった。昨日は魔王軍に殺されかけて、今朝は貴族令嬢を介抱して……もう私、何をしてるんだか)
そう思いながらも、胸の奥に温かい感情が灯る。
悪役令嬢グローリアだった頃、私はフローレに雑用ばかり押しつけていた。
でも今はーー助けたいと思った。
「ねえ、本当に良いの?」
さっき意思を確認したけれども、もう一度訊いてみた。
「はい。グローリア様が一人で旅に出るのを、見ていることなんて出来ません。あたし……ずっと支えたかったんです。貴女がどれだけ叱っても、どれだけ気丈に振る舞っても……寂しそうなの、気付いていましたから」
「……っ」
胸がつまる。
そんなこと、私は一度も気付かなかった。
悪役令嬢グローリアとして過ごしていた頃の私は、誰も自分を見ていないと思っていた。
「でもね、フローレ。旅は危険よ。魔物もいるし、魔王軍もいる。仲間になるって、それだけで命を賭けるということなの。昨日だって……私、死にかけたんだから」
さっきよりも詳しく説明していく。
危険性が伝わるように。
「構いません」
フローレは迷いなく言った。
それも同じ言葉でも、よりはっきりと。
「グローリア様と一緒なら……たとえ危険でも、あたしは後悔しません」
強い意志をを宿した目。
さっきまで倒れていた少女とは思えなかった。
(……やっぱり変わらないのね)
「ねえ、どうして私を追いかけたの? 私が本当にエミリアを……」
誰もが信じていたのに。私の罪を。
だからこそ、誰も助けてくれなかったから。
「いいえ。グローリア様は何もしていないと思っています」
「えっ……?」
どうしてそう信じてくれるんだろう。
「グローリア様を無情にも処分しているとすれば、ネウム家があんなに荒れていたのがおかしかったからです」
「ネウム家が……? お父さんが私を追放したのに……?」
「だからこそ、信じたんです。あれは何もやっていないと」
ここまでポップアップが出てこないなんて。
あのUIがおかしいと思うくらいに。
真実をずっと言い続けているんだ、フローレは。
(フローレ……あなたはずっと私に仕えてくれていたのに、私はあなたの気持ちを一度も見ようとしなかった)
だからこそ、私はフローレの気持ちを再確認する。
私は微笑みながら、手を差し伸べた。
「それなら、一緒に行きましょう。これからは、”仲間”として」
「……っ、はい!」
フローレは涙を浮かべながら私の手を握り返した。
その瞬間、ポップアップが出てくる。
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◆パーティ結成
【新規メンバー:フローレ・ザグレブ】
役割:支援・補助・生活技能
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彼女の手を握った瞬間、森の風がふっと止まり、澄んだ音が耳の奥で鳴った。
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◆ステータス情報
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名前:フローレ・ザグレブ
種族:人間
職業:侍女見習い
階級:貴族令嬢(没落中)
称号:奉公人/光の芽吹きを持つ者
レベル:1
HP:34/34
MP:52/52
力:3
知性:14
器用:27
運:9
スキル
・薬草処理
・簡易治癒
・家事万能
・応急手当
・光魔術
・風魔術
・生活魔術
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二つのポップアップが出ていて、私に情報を与える。
「何これ、けっこう能力がある。本当にゲームみたい……」
「えっ……グローリア様? 今、何か……?」
フローレがきょとんとしている。
そっか、見えていないんだね。
かなりメタい感じになっているんだ。
「あ、ううん! 何でもないわ。ただの仕様よ、仕様!」
仕様もメタっぽいセリフなのを思い出した。
でも、そのまま通しちゃおうかな。
(仲間になるとこんなのも出るの!? 便利すぎるでしょこのチート!)
でもUIの端には小さく注釈があった。
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◆”キーマン”の加入により、ストーリー分岐が発生しました
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「……キーマン?」
ポップアップの文字を見てみると、キーマンという文字。
フローレが重要キャラなの……?
「グローリア様? 大丈夫ですか?」
読み上げていると、さらにフローレは困惑していた。
メタい部分に触れているから、やっぱり状況が分からないんだ。
フローレの前では気をつけないと。
「う、うん! とりあえず、行きましょう。まずは最初の村を目指さないと」
私達は村を目指して歩いていく。
追放された悪役令嬢。
元女子高校生の私。
それを慕ってくれた没落貴族の令嬢。
私とフローレの旅は、ここから本当の意味で動き出した。
断罪されて追放された悪役令嬢、頭を打って前世JKに戻ったら 、RPGチートが覚醒して逆ハーレム作る旅が始まりました 奈香乃屋載叶 @NCR144
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